第180話 姉の不安


 一方、皇都のとある場所では、姦しい姉妹がにぎやかになにがしかしていた。


「ねえねえどうだった?」

「行けそう?行けそう?」

「ちゃんと誘惑してきた?」


 わちゃわちゃとムーを囲む姉妹たち。

 一方、ムーは困り顔で首を傾げている。

 すると後ろから怒気をはらんだ声が聞こえた。


「あ~ん~た~た~ちぃ~?」


 ピタリ


 全員の息をのむ音が聞こえた。


「ムーが助けに行こうとしたらヨミが居ることに気付いて無理矢理化粧させておめかしさせてたみたいねぇ?」


 ハミ妃こと水江宮ハミがじろりと全員を睨む。

 心なしかお団子ツインテールがうにょうにょと蠢いているように見える。

 そして、全員が一斉うなずいた。


「「「「「ムーちゃんゴメン!」」」」」


シュバババババババ!!!


 一斉に散り散りになって逃げていく姉妹たち。

 後に残されたムーだけが泣きそうな顔になる。

 呆れた顔でため息一つ。


「あの子たちに負けて言われるがままになってたんでしょ?」

「(コクコク)」


 何も言わずにコクコクうなずくムー。

 

「ちゃんと自分の意見ぐらい言えるようになりなさい。いつまで子供のつもりで居るの?」

「……ぐす……」


 泣きべそをかき始めるムー。

 はぁっと盛大に溜息をつくハミ。


「まあいいわ。それでお前たちは……首尾は悪かったってことね」

「……ごめんなさい」

「申し訳ありません姉上」


 二人の女性がハミ妃に謝る。

 一人の見た目は紅い服を着た貞子だろう。

 焚火の時に刀和達の所に現れた女性だ。

 

 もう一人はと言えば、一言で言えば男装の麗人だろう。

 宝塚に居そうな麗人で男同様に狩衣を着ている。だが、見た目は少し変則的な狩衣で所々がおかしい。

 しいて言えば男性服と女性服の中間ぐらいである。


「……混乱させることは出来てた」

「見たいね。でも結果はダメだったと」

「姉上。単純にウランが悪いわけでは……」

「知ってるわカスミ。創世魔王龍が現れたそうね……」


 苦い顔になるハミ。

 カスミと呼ばれた男装の麗人も困り顔になる。


「アズナイの方にも居たみたい。どうも新しく生まれた『魔王種』のようね」

「……魔王種ですか?」


 男装の麗人カスミが訝し気な顔になる。


「あいつらは最強魔王の一種「創造」と「龍」の掛け合わせよ。厄介な連中と思っていいわ」

「……「龍」はともかくとして「創造」ですか……」

「ええ、「創造」よ。あいつらお得意の「科学」には最強の援護になる……」


 苦々しい顔になるハミ妃。

 そう言って二枚の手紙サイズの紙を見るハミ妃


「まあ、この二人は科学とは縁遠いみたいだから、科学力を武器には出来ないだろうけどね。アズナイの方は厄介よ。科学が得意な奴が一人いるみたいだし」

「向こうは難しくなりそうですね」

「そうね。でもアズナイのことだから何とかやるわよ」


 そう言ってハミ妃は取り出した紙をしまおうとすると、黙っていた貞子ファッションのウランが声を上げた。


「……ヨミの相棒はトワを名乗ってた」

「……えっ?」


 他の二人がウランの方を向いた。


「ただ……物凄く太ってた」

「んんんん?」


 眉を顰める二人。

 太っているというのは色んな意味がある。

 その可能性を色々と考える二人だが……ハミは尋ねた。

 

「最近になって太った可能性は?」

「……無いみたい。聞いてみたら、小さい頃から太ってたって」

「じゃあ違うわね」


 ちょっとだけホッとするハミとムー。

 そしてムーの方を見る。


「あの子の恋は成就してほしいもの。違っていて欲しいわ」


 何だかんだ言いながらもハミはお姉さんだった。


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