第117話 賢人の死


 一方で刀和達は別の人を探していた。


「ドームさん! ドームさん! 」


 必死で屋敷の中を探す刀和だが、瓦礫と化した屋敷の中からはドームは見つからない!


 瞬も一緒に必死で探していた。


「すいません! この瓦礫どかしてください! 」

『あいよ』


 晶霊たちを使って必死で探しまくる瞬。

 屋敷の一部が瓦礫になったのでそこに居ないか探しているのだ。


(牢屋は他にもあるみたいな口ぶりだったけど……)


 見つからないことに焦る瞬。

 すると、一人の晶霊が手に男を掴んで現れた。


『シュン殿! ウマカイの家人が一人見つかりました! 』

「ありがとう! 」


 そう言って目の前に現れた男を睨み付ける瞬。


「ドームさんはどこ!? 」

「あ、あのあたりです! 」


 そう言って家人はある場所を指さす。


 一番瓦礫がこんもり残っているところである。


「早くどかして! 」

『『了解! 』』


 ガシャガシャと瓦礫をどかす晶霊たち。

 すると身に覚えのある狩衣を着た男が現れた。


「ドームさん! どー……」


 名前を呼んだ瞬は絶句する。


 ドームの頭には瓦礫が乗っかっており……どう見ても頭が潰れていた。


「ドーム……さん? 」


 駆けつけた刀和もそれを見て絶句する。

 瞬はドームの手を取り……悲しそうに涙を浮かべる。


「アカシと相棒を組めるようになったのに……」


 ドームは相棒を解消したことを気に掛けていた。

 そして瞬はドームがやっていたことがようやくわかった。


(わたしをトラウマから助けてくれたのに……)


 ドームとやっていた事のお陰で瞬はコックピット恐怖症から立ち直れたのだ。


 刀和はドームの前で手を合わせて祈りを捧げる。

 瞬もそれに倣う。


「「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」」


 二人とも言える念仏はこれだけなので心の中で何度も祈る。

 そして奇しくも最後に二人が心の中で言った言葉は同じだった。


「「ありがとう」」


 二人はドームへささやかながら祈りを捧げた。

 すると、ラインは悲しそうにドームの死体のそばでしゃがみこんだ。


「……もっと学んでおけばよかったなぁ……」


 そう言って手を合わせて祈りを捧げるライン。

 この辺の対応はこの世界でも変わらない。


「古より月海レオリスを守りしリオル様の元へ恩御霊を送られ……」


 祈りの言葉が違うだけである。

 しばしの間、ヨルノース皇国流のお祈りを捧げるライン。

 こちらは曲がりなりにも教育を受けており、こういった祈りの言葉もきちんとマスターしている。


「……ありがとうございました」


 心の中できちんとお礼を言うライン。

 すると、こちらに来ていた官僚たちがライン達に尋ねる。


「もう遺体は片づけて宜しいですか? 」

「よろしくお願いします」


 そう言って遺体を片づける官僚たち。

 お役所仕事なので事務的に処理している。


 それを寂し気な顔で見つめるライン。


「一度は太政大臣にまで上り詰めた人がこんな終わり方をするなんて……」

「わからないものだね……」


 同じく寂しそうに答える刀和。

 そしてふと重要なことに気が付く。


「そういえばトーノさんは? 」

「ダメだ。中に入っても苦しそうに呻くだけだ。相当強い毒らしい」


 陰鬱になる刀和。

 すでにどれほど苦しい毒なのか聞いたのだ。

 ラインが恨めしそうにぼやく。


「ミドーめ……何を企んでいるのやら……」

「……ミドー? 」


 その名前が出たことで訝しむ刀和。


「ああ、刀和が乳揉んだのはハミ姫の妹のムーだ。美人だが相当無口でな。ろくに会話したことねーが、相当荒っぽい女みたいだぜ? 」

「……荒っぽい? 」

「ああ」

 

 忌々しそうにぼやくライン。

 だが、荒っぽいというよりは大人しいと感じた刀和は不思議がる。

 ラインは続けて言った。


「あいつは言い寄ってきた男の腕の骨をへし折った。相当腕力強いみたいだぞ? 」

「そんなに? 」


 言い寄ったからと言って骨を折ると言うのは尋常ではない。

 ラインは羨ましそうに言った。


「そんな相手の乳揉めるなんて良い思いしやがったなこの野郎」

「そんな嬉しい状態じゃなかったよ……」


 げんなりして答える刀和と『立ってただろ? 』と心の中で突っ込むラインだった。


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