第116話 事後処理


 それから、半日が経過して夕方。


 合体を解除した二人はとりあえず一休みしているとフキアエズとトヨタマ達がやってきた。


『いやあ、大変でしたねぇ……』


 のんびりと言うフキアエズ。

 フキアエズもタマヨリ同様にホーリ大毅の代わりとして仕事をしている。

 ホーリの名代でもあるのだが、今回は誘拐された瞬を返還させるためにやってきたのが、残務処理に早変わりしていた。

 一緒に連れてきたのは『小団しょうだん』と呼ばれる軍の単位で10人ほどの晶霊の集まりである。

 概ねだが、晶霊士の火長が率いる10人のことを小団と呼び、晶霊士の中でも指揮に特化した隊長がいくつもの小団を率いるのが 中団ちゅうだん

 そして晶霊将が率いる中団をいくつかまとめた軍団を大団だいだんと呼ぶ。

 今回は太宰府の官僚と共に旅立った一団だが……


『ああ、ウマカイは大したこと無かったがな……とんでもないのが一人いてなぁ……』


 ヨミがくたびれたように愚痴る。


『ミナ=ノフィンとかいうクラゲ型の晶霊が襲ってきて大変だった。何だったのかしらアイツ? 』


 不思議そうに呟くアカシ。

 すると、フキアエズが不思議そうに首を傾げる。


『ミナ=ノフィン? クラゲ型の? 本当にそう言ったんですか? 』

『そうだけど? 』


 不思議そうに尋ねるアカシ。

 だが、フキアエズは真剣な顔になった。


『このことは誰かに言われましたか? 』

『いんや』

『誰かも何もまだあなたが初めてよ』


 ヨミもアカシも口々に不思議そうに言う。

 するとフキアエズは二人に顔を近づけてこそこそと言った。


『ツツカワ親王の兄上であるエーエン親王の后であるハミ姫様はご存知ですか? 』

『全然』

『一応は知っておきなさいよ。話だけは聞いてるけど? 』


 全く興味のないヨミに呆れるアカシ。

 するとフキアエズは神妙な面持ちで言った。


『ミナ=ノフィンはハミ姫様の妹でムー=ミドーの相棒です。時空転移の能力を持つ晶霊将でもあります』

『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』


 顔を青くするアカシと嫌そうな顔になるヨミ。


『ちなみに相棒の姿を見ましたか? 』

『見た。金髪の背の高い女だったが……』

『ムー=ミドー様は金髪で背の高い美人だそうです。私にはよくわかりませんが……』


 当り前だが晶霊は人間と価値基準が違うので美人の条件も違う。

 だが、噂話で何となく美人がどういうものかはわかる。


『何でそんな人が……』


 アカシが顔を青くする。

 そんな大物に喧嘩を売ったとは思わなかったからだ。

 だが、フキアエズは飄々と答える。


『恐らく、何らかの謀略が関わっているので表ざたにはできないので下手に話せません。気を付けてください』

『そんな……』


 困り顔のアカシだがヨミは飄々と答える。


『気にすんな。あの女が怒っているのは俺と合体したことで、ただの色恋だ。あいつは謀略は不得手だから心配することは無い』

『どういうことよ?』


 アカシが訝し気に尋ねるがヨミは飄々と答える。


『あの女は強いだけで謀略とか戦略がまるでダメなんだ。相棒もろくに話も出来ないコミュ障女だからな。職権濫用出来る程じゃない』

『……ひょっとして知り合い?』

 

 嫌そうな顔をするアカシだが、何故かヨミは首を傾げた。


『うーん……知り合いではない……何と言えば良いか……

『……あーそういうこと……』


 面白い物で同じような性格の人間は、同じような境遇にあり、同じようなことをやり、考え方も同じである。

 

『要はああいう女に前に手を出したわけね』

『面目ない♪』


 全く悪びれずに答えるヨミ。

 それを聞いてフキアエズは笑った。


『ヨミ殿の言う通りです。ミナ殿は非常に会話下手な性格でして、ノフィン旅団を運営させてもらえないのです。ただ、優れた戦士ではありますので、いつも他の姉妹と共に出撃しています』

『そうなの……』


 ちょっとだけホッとするアカシ。

 どうやら、姉妹と言うだけで実権は持っていないようだ。

 だが、ヨミは訝し気な顔になる。


『ノフィン旅団とはなんだ? 』


 旅団とは言わば貴族の私兵軍団に当たる。

 晶霊が中心のカマクラ団セーワ家も旅団を持っているし、三摂家も旅団を持っている。

 とはいえ、ヨミが聞いているのはそう言った基礎的な話ではない。


『なんでもミドー家の旅団でノフィンという名前の士族だそうです。』

『……ミドー家……』


 訝し気なヨミ。


『ええ、最近勢いを強めているミドー家の旅団ですがどうしたんですが?』

『ちょっと聞いたことが無かったからな。どこの旅団なんだ?』

『東山のムツ国です。ミドー家は元々そこの一族ですから……』

 

 フキアエズが飄々と答えるが尚も訝し気なヨミ。


『俺はつい最近まで東山のムツ国にも居たがそんな一族聞いたことも無いぞ?』

『……どういうことですか?』


 訝し気な顔になったフキアエズにヨミはこくりとうなずく。


『ああ。まあ、全部を知っているほどではないが、向こうでも戦はしていたからな。弱小で名前も知られてないってのならわからんでも無いが、都で一大勢力を築くと言うことは財力が相当あるのだろう?』

『ええ、大量のサンゴを所持しておりまして、ムツ国の所領から送られていると言っておりましたが……』


 弱小の貴族にそんな真似ができるはずがない。

 その事実に気付いたフキアエズは顔を青くする。


 それだけの財力のある貴族がご当地で無名であるはずがない。

 それなのに、しばらくそこで戦争をしていた者が名前も聞いたこと無いのだ。

 

 ヨミは不審そうに尋ねる。


『……ムツ国は俺も知っているがそれほど裕福な土地ではない。どちらかと言えば貧困にあえいでいるし、珊瑚もあまり取れない……』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


 にわかに雲行きが怪しくなってきて、不安に駆られるアカシとフキアエズ。

 ヨミはにかっと笑う。


『ま、何かトリックがあんだろ? 俺達が知らんような隠し技が』

『そうですよねぇ!』

『そうなるわよねぇ!』


 そう言って笑いあう三人だが、突如として声が上がる。


『スイマセン。ヨミ殿にお尋ねしたいことがあるんですが? 』


 付近を捜索していた晶霊の一人がこちらにやってきた。手には大きな鰐の頭蓋骨を持っている。


『なんだ? 』

『この鰐は誰が仕留めたんでしょうか?』


 不思議そうに鰐の頭蓋骨を見せる晶霊。

 訝し気なヨミ。


『??? 知らんぞ。俺たちが戦ってる時には居なかったぞ?』

『そうなんですか?』


 不思議そうな晶霊。

 その態度に訝しむフキアエズ。


『どういうことだ?』

『この鰐の頭蓋骨の周りにはまだ血煙が漂っていたんです。 ですからてっきり戦闘中に倒したものと思いましたので……』

『……なに?』


 不穏当なことを聞いて驚くヨミ。

 自分が知らない所でそんな真似をしたやつが居たのだ。

 フキアエズも訝し気に尋ねる。


『……その頭蓋骨はどこにあった?』

『山頂から少し下に降りた窪みですね』

『ちょっと待て! ほんの半日で骨だけになるなんぞどうやったらできる?』


 ヨミが怒鳴ると晶霊が不思議そうにする。


『それが変なんですよ。てっきり何かの能力を使ったと思いましたので』


 それを聞いてさらに不安になる三人。


『ちなみにあそこです』


 そう言って晶霊が指さした先は屋敷からも良く見えた。


 言い換えると向こうから見ていたことになる。

 一瞬で敵を骨だけにする化け物が。


『『『・・・・・・・・・・・・・・・』』』


 背筋にうすら寒いものを感じる三人であった。


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