第99話 出撃準備


 一方、その様子を遠くから見ている者たちも居た。


「あいつらはあいつらで揉めてるなぁ……」


 ラインが不思議そうに見ている。

 あれからすぐに追いかけてきたので、何とか追いついたのだ。

 だが、追いついたのが屋敷に入る直前だったのでどうすることも出来なかった。


「まあ、下郎は醜い争いが好きですからな」

『まったくだ』


 ラインお付きの強面髭面のお兄さんサダカゲとその相棒シマンがバッサリと答える。

 シマンはコバルトブルーの肌に大鎌を持っており、昔は一人で大蛇を倒したという逸話を持つ晶霊でもある。

 ちなみに女性晶霊で女性と男性の晶霊士である。

 次に隣の晶霊士が声を上げる。


「もう少し早く着いていればなぁ……」

『そこはしょうがないでしょ? 』


 弓を持った狐目のスリム美女スエムが同じように弓を持った晶霊と話す。

 スエムとその相棒のウブメである。

 弓を得意とする晶霊でこちらは緑色である。


「思ったよりも兵が多いわねぇ……」

『まあ、全部切れば良いだろ? 』


 狸顔のぽっちゃり美人が肩に乗っている銀色の肌に黒いラインが入った晶霊と話す。

 アミとその相棒ゲンジツナである。

 こちらは男女の晶霊士だが、こう言ったパターンも珍しくはない。


『ま、どうだっていいだろ? どうせ全部切り倒せばいいんだから』

「そうだよ! おいらとカイドウマルが居れば何でも壊せる! 」


 キンタとその相棒カイドウマルの二人が笑う。

 こちらは晶霊も人間も双方が身体だけデカくて心は幼いタイプだ。

 どちらも難しいことは考えないタイプなので馬が合うようだ。


 その4人が話すところを見て刀和はぽつりと呟いた。


「……相棒にも色んなパターンがあるんだねぇ……」

「俺やトワみたいに年寄りと若手のパターンも結構多いんだぞ? 」

「そうなの? 」

「ああ、技術継承の為にもあえてそう組ませるパターンも多い」


 ラインが刀和の疑問に答える。


 大貴族になると、戦闘技術の継承も兼ねて若手と年寄りで無理矢理組ませることも多い。

 感覚を共有するので教えやすいのだ。

 年齢からいえばヨミは60代でトーノは40代。

 歴戦の古強者と有望な若手に組ませることで技術の継承を狙うのだ。

 もっとも、必ずしもうまく行くとは限らないのでその辺の相性も大事だったりする。


 すると、勝手についてきたタマヨリが不満そうに声を上げる。


『あたしとトヨ姉ぇみたいに代わりとしての役割もありますわよ? 』

『別に無理にやることは無いって言ってるでしょ? 』


 タマヨリの言葉に困った顔になるトヨタマ。


 タマヨリはトヨタマが出撃するの見て、慌ててついてきたのだ。 


 それを聞いて不思議がる刀和。


「代わりって……」

「校尉に万が一があった場合のために兄弟姉妹が代わりの相棒を務めるってパターンだ」


 こちらはこちらで重要になってくる。

 地方豪族でもある郡司にとって血統は重要である。

 何しろ、上手く繋がないとそこで終わってしまうのだ。


 ところが、月海の場合、晶霊と人間が手を取り合っているので『片方だけ』没落することがある。

 それを防ぐためにも郡司の兄弟と校尉の兄弟で相棒を組ませるパターンも多い。


 だから、タマヨリも次期当主でもあるトヨタマを守るために慌ててついてきたのだ。

 

 晶霊は晶霊で色々と複雑で大変なのだ。

 すると、トーノが声を上げる。


『しかし、確かに変だな? 何で50騎近い晶霊が集まってるんだ? 』

『おいライン。本当に言ってた規模で合ってるのか? 』


 ヨミも不思議そうな顔で様子を見ている。

 ライン自身も不思議そうに屋敷の様子を見ている。


「間違いないはずだ。大体、常時50騎の晶霊が常備するなんて国司クラス以外は無理だろ? 」

『それもそうだな……』


 太宰府でおよそ百騎近い晶霊が集まっており、国司で50騎前後が常時町を守っている。

 郡司はそれよりも少なめに定められており、それ以上集めるのは有事の際だけと決まっている。

 ラインも首を傾げている。


「変だな……何でこんなに晶霊を集めているんだ……」


 ラインは不可思議さに首を傾げているが、トーノは言った。


『ひょっとしてウマカイが反乱を企てていたんじゃねぇか? 』

「……えっ? 」


 きょとんとするライン。

 だが、ヨミもうなずいた。


『反乱を企てている真っ最中なのにこんな事件を引き起こしたから激怒してたのかもな』

「あー……そういうことか! 」

 

 刀和も納得する。


 不審な軍事行動の大半がこういった『戦争への布石』なのだ。

 『戦争仕掛けても大丈夫かなぁ? 』と揺さぶりをかけているのだ。

 そのため、こういった小さな軍事行動にも目くじらを立てるものである。

 もっとも、『仕掛ける側としては困るから』抗議している場合もあるので一概に言えない。


『もうすぐツツカワ親王が都に戻るって話しだからな。そこに乗じるって腹積もりかもな』


 領主が遠征に出た場合、最大の危険は『残してきた部下が裏切る』ということである。

 そのため、領内の団結が明確でなければいけない。

 本能寺の変のような裏切りは割としょっちゅうあるのだ。


 ラインが獰猛に笑う。


『つまり……遠慮はいらんということだな』


 トーノは着流しの前を開いて、ラインに乗れと合図した。

 晶霊にとって服の前を開けるのは戦う準備でもある。

 ラインがトーノのお腹にゆったりと泳いで中へと入っていく。


『さ、俺たちも行くぞ』

「うん! 」


 刀和も同じようにヨミのお腹に入ろうとしたその時だった!


『お願い! シュンを返して! 』


 聞き覚えのある声に一同がそちらへ向く。


『えっ………………』


 トヨタマが一瞬呆けてしまった。


「アカシがなんで………………」


 ウマカイの屋敷の前でアカシが押し問答をしていた。


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