第92話 賢人の奇行には意味がある
一方、家人に落ちた瞬はオトの雑用をやりつつも、前にツツカワ親王に言われていた食料配達係をこなしていた。
ドームは瞬が書いた木板を囲炉裏に入れてそのまま燃やす。
「はい。お疲れ様」
「はぁ……」
不思議そうな瞬は木板に書かれた自分の文字が燃える様子を見ている。
あれからずっとこんな調子なのだ。
刀和と瞬が食料を運ぶと決まってドームは最後に瞬一人と対話して、トラウマ経験を聞き出す。
そしてその内容を木板に書かせては薪にする。
その繰り返しであった。
たまに「その時どう思った? 」とか「どうしたかった? 」などと尋ねるが、概ね同じようなことを言って、同じようなことを書いている。
(なんでこんなことやるんだろう? )
最初は何かを聞き出そうとしているように見えたのだが、最近は割とおざなりである。
慰めるような所もあったのだが、適当になってきており……今は聞いたことをただ書いて焼いているだけである。
(意味わかんないなぁ……)
瞬の方も最近慣れてきたのか定型文になってきた。
言われたことを適当に言って適当に書く。
ただ、それだけを繰り返すようになっている。
(いつまで続ければいいんだろ? )
面倒くさくなり始めている瞬。
するとドームが笑った。
「段々めんどくさくなってきたみたいだねぇ……」
「いえ! そんなことはありません! 」
慌てて否定する瞬。
するとにやっと笑ってドームが言った。
「そうなのかい? じゃあ、もっとこれを続けないとね? 」
「うっ……」
思わず嫌そうな顔になる瞬。
同じことの繰り返しで、もうやるのが辛いのだ。
嫌そうな瞬に笑いながらドームは尋ねる。
「あれからアカシには会ったのかい? 」
それを言われて困り顔になる瞬。
アカシの姿は遠巻きに見ているが、顔は合わせづらいので会いに行ってはいない。
(あたしも会いたいんだけど……)
この前の一件が怖いのだ。
フラッシュバックで襲ってくる男たち。
それを思い出した瞬は……
(嫌だな……)
嫌な気持ちになって眉を顰める瞬。
その様子を見ているドーム。
(ふむ……)
ドームの目が鋭くなる。
(大分良くなったみたいだな)
最初に瞬が話していた時は涙を浮かべて恐怖に引き攣った顔になった。
心に傷を負った証である。
だが、今は眉を顰めただけである。
(言葉と文字にして心の毒を吐かせることで心の傷は軽減される)
ドームが行ったのは『暴露法』と呼ばれるやり方でトラウマの治療方法である。
こういった治療法は学問としては無くても経験則から知っている人は知っているのだ。
特にドームは本来『学者』である。
神童とまで言われた天才学者でもあったので彼は上り詰めたのだ。
こう言った事例に出くわすこともあったのでその対処法を実戦して見せたのだ。
(もう少しだな……)
ドームは瞬が治ることを確信して笑って言った。
「今日はもういいよ。次もお願いね」
「はい……」
肩を落として竪穴式住居から出る瞬。
それを嬉しそうな目でドームが見ていた。
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