第51話 絶対切断


プシュン……シャキン……


 奇妙な音を立てて、黒い大剣をしまい込む絡繰り仕掛けの鞘。

 ヨミは黒い大剣を背中に戻してから、その辺に落ちていた剣を一本拾う。


『壊されちゃたまらんからなぁ……』

『意外に貧乏性だな』


 そう言って笑うダンケルだが、目は一切笑っていない。

 木刀を構えてにじり寄る。


『お前とは一度戦ってみたかったんだよなぁ……最強なんだろ? 』

『俺が強いんじゃねぇよ。お前らが弱すぎなんだよ』


 そう言って拾った剣を構えるヨミ。

 頭の上で刃先を敵に向けて水平に構えた独特の構えだ。


『ま、その方が無双できてありがたいんだけどね』

『気に障る言い方するジジイだな! 』

 

 いらっとした声で一足一刀の間合いに入るダンケル。

 そしてヨミがさらに一歩入ったその時だった!


ヒヒュン!


 お互いの放った一撃を互いに避ける二人。


『ひゅぅ……』

『じじいのわりにすばしっこいな! 』 


 そう言って今度は海賊ダンケルの方から鋭い連続攻撃を放つ!


ヒュヒュヒュヒュフ!


 先ほどとは逆にダンケルの連続斬撃を避け切るヨミ!


ガシィン!


『くっ! 』


 隙を見てダンケルの手元に膝蹴りを入れるヨミ!

 その痛みのせいで木刀を落とすダンケル!

 その隙にヨミは剣を振り下ろす!


スパン!


 小気味よい音がした。


 ヨミの剣の方が両断されたのだ。

 その瞬間! ヨミは危険を感じて跳んだ!


ズサァァァァァ!


 かなりの距離を跳んだヨミは海賊ダンケルから遠ざかる。

 状況がよくわからないので、慌てて尋ねる刀和。


(何があったんですか!? )

(あの野郎……体に絶対両断を掛けやがった……)

(えっ???? )


 きょとんとする刀和。

 どう見ても体に刃物を持っていない。


(絶対両断は細かったり薄い物であればなんでも刃物に変えられる……)

(薄い? 細い?……そんなもの持ってないですよ? )

 

 海賊ダンケルの体は白い体に黒い斑点が付いているだけで、着流しを着ている。

 はっきり言って薄い物も細い物も隠していそうに無い。


『惜しかったなぁ……俺の手で八つ裂きに出来たんだが……』


 そう言ってダンケルがふんっと体に力を入れる。


バシュシュシュシュシュン!


 全身から針が飛び出るダンケル。


(ハリセンボンだったんですか…………)

(そうだ。厄介な能力だ)


 全身から刃が出ているようなもので、その一つ一つが絶対両断となると無敵の鎧を着ているのと一緒だ。

 二人が困っていると、別の所でも声が上がった。


『くぅぅぅぅ』

『くっ! 』


 トヨタマと一緒に戦っていたアカシがとうとう膝をついた。

 脇腹の傷からはだくだくと血が流れている。

 一緒に戦っているトヨタマも疲労の限界で立っているのがやっとのようだ。


 彼女らはすでに一時間以上戦っている。

 これ以上は戦うこと自体難しい


 それに気づいたダンケルはいやらしくにやりと笑った。


『あっちの方もそろそろ限界のようだな……』

『そのようだなぁ……』


 ヨミは苦笑するしかなかった。


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