第39話 壮行会
リューグの町は西国の田舎町で、北と東に行くと海があり、周りが海の中のようなこんな世界で言うのもアレだが『海の幸』が捕れる。
この世界では海は一つしかなく、川のように月海≪レオリス≫の中を巡回している。
見た目が大河に近いが、立派な海なのだ。
この海が網の目のように流れているので『大網海』と呼んでいる。
実際、ツクシ国の北に流れている海のすぐ北は壁になっており、そこを上へ行くと天上の氷海に繋がる。
そんなリューグの町の入り口には晶霊が20騎並んで挨拶をしている。
『ではトヨタマ様。行ってまいります』
『お任せします』
晶霊が出陣するので壮行会を開いているのだ。
率いるのは家老のオトシゴで激励の言葉を受けて20騎の晶霊たちが太宰府へと向かって行く。
その様子を見て赤い晶霊アカシがぼやく。
『あーあ……あたしも行きたかったなぁ……』
アカシはふくれっ面で口を尖らせている。
アカシは討伐軍入りを希望したがトヨタマからの指示で残留が決まった。
トヨタマが困り顔で答える。
『仕方ないのよ。晶霊士を三騎送るとこっちが手薄になるから……』
有数の郡司であっても、そんなに晶霊士はいない。
リューグに居た晶霊士はトヨタマも含めて全部で5騎。
この内、自由に動けたのはトヨタマとアカシを含めて4騎だが、アカシは相棒である瞬がこちらの常識を知らないのと、晶霊士になったばかりなので危険と判断されたのだ。
また、アカシ自身も年若く、戦の経験がない。
100騎も居れば大軍なので、そんな大軍になると個々の軍の軋轢など普通に戦う以上に難しい問題が出てくるので、そう言った意味でも難しいと言われたのだ。
竹刀を手持無沙汰にブラブラさせるアカシをトヨタマは窘めた。
『これからまだまだ名を上げるチャンスはあるわよ。今回は自重しなさい』
『はーい……』
仏頂面でアカシはトヨタマの言葉に答えた。
それを見て、オトがパンパンと手を叩く。
「のんびりしてるひみゃは……」
そう言って口を押えるオト。
瞬が苦笑した。
「なに噛んでるのよ……」
「かみまみた」
「わざとじゃない……ってうぇぇぇぇっぇぇ!!! 」
瞬が驚くのも無理もない。
オトの口が何故か血だらけになっていたのだ。
慌てふためく瞬。
「ちょっ! 何やってんのよ! 」
「くひのなははんひゃって……」
「ああもう! 口の中血だらけじゃない! 」
慌てて手ぬぐいを渡す瞬。
情けなさそうに刀和に声を掛ける。
「ごめん。こんな感じだから、晶霊集めるのは刀和の方で始めて」
「了解」
苦笑する刀和が泳ぎだす。
兵隊の大半が向こうに行ったので足りない分を補強しなければならないのだ。
要は、今まで見回りしなかった晶霊にもお願いしなければいけない。
「ほめん……」
「いいから! ほんと馬鹿ねぇ……」
瞬は呆れながらオトを屋敷へと連れて行った。
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