第40話 見つめる者
一方、その様子を眺めている者が居た。
『リューグは予想通り、20騎送ったようだな』
海賊スミトの相棒ダンケルが岩場の影でにやりと笑う。
海賊スミトがにやりと笑う。
「もう少し頭を使えば危険とわかるのにねぇ……」
他の郡司は10騎程度しか送っていない。
何故なら、海賊なので自分たちの土地を襲うのが何時かわからないのだ。
「頭! どうしてリューグだけ手薄にするってわかったんですか? 」
「手元にいい人材が入ると、ついつい足元がお留守になるんだよ」
「……はぁ? それはどうしてですかね? 」
「主が調子に乗ってしまうのさ」
人間は上がり調子になるとついつい羽を伸ばしたがる。
良い人材が入るとそれに甘えてしまうのだ。
オトもトヨタマもシュン=アカシという晶霊士を手に入れて少しだけ浮かれた。
「さらにあそこだけ当主代行が管理している。父親が有能だとこういったときに困るねぇ」
有能な人材が欲しいのはどこも一緒である。
現に西海太宰が一番重用しているのがリューグ郡司であった。
「娘も決して愚鈍では無かったが……」
20騎送るのは常識的に判断すればベターな対応だろう。
太宰府も近いのでそれほど問題にはならないはずだ。
「俺たちは西海太宰府を攻撃する拠点も欲しかったんだよなぁ……」
リューグは西海太宰府を襲う上で丁度良い拠点になっていた。
西海太宰もリューグ郡司に絶大な信頼を置いていたので、なおのこと気付きにくかった。
スミトは周りの部下に尋ねる。
「手紙を出した連中の参加はどうなっている? 」
「へい。前のイヨ国の襲撃が話題になっているらしく、手紙を出した親分達の大半が賛同してこっちに向かっています」
親分とは海賊の親分のことで、海賊は主となる一団があっても、他の海賊と連合を組むことがある。
連合を組むとなれば当然『実入りが良く』『勝つ確率の高い』親分と組むのが自然だ。
それも必ず約束を守る信義に熱い親分が望ましい。
その際に箔をつけるためにイヨ国を先に落としたのだ。
実際、スミトはイヨ国を落とした際にかなりの犠牲を出したが、得られた物は少ない。
だが一方で「一国を落とすほど強いスミト」だからこそ、配下に加わろうとする者も多かった。
そして何よりも『国司の美女を部下にあげた』という『約束を果たした実績』が大きかったのだ。
イヨ国最大の宝ともいえる美女を部下にあげるのであれば、当然参加した親分の分け前も気前がいいだろうと判断されたのだ。
スミトはこういったことも計算に入れて、部下に美女をあげたのだ。
思い描いた通りに話が進み、ほくそ笑むスミト。
「よし……では襲撃は明日の夜にする」
スミトはそう言って決めた。
(出発した晶霊たちが太宰府に到着するのは明日の昼だから、そこがベストだ)
そして、多数の晶霊を動かしてもバレないのは夜だ。
中々の好条件での襲撃なのに、一緒に居た幹部が困った顔をした。
「親分……それは止めた方がよろしいですぜ? 」
「何故だ? 」
「サンケ親分とガズエル親分がこっちに向かっていますぜ? 」
「本当か? 」
スミトが驚く。
二人とも近在に名の知れた晶霊で相当強い海賊団だ。
二人とも20騎近い晶霊の海賊団である。
幹部が嬉しそうにうなずく。
「へぇ……明日に到着するので兄弟の盃を交わしたいとのことです」
「ふぅむ……」
少しだけスミトは悩んでしまった。
実は襲撃を明日にするつもりだったのだが、名の知れた親分が二人も仲間になるのだ。
(あまり長引かせると気づかれる恐れがあるのだが……)
当り前だが……所領で身長10mを超える晶霊が何十人も集まれば、隠れててもいつかはバレる。
今の居場所も見つかるギリギリの線なのだ。
(明後日には見つかる恐れがあるが……)
名の知れた親分が二人も仲間になるのは美味しい。
何しろ、総勢が40騎もアップするのだ。
それにこういったアウトローな連中は気難しい。
この機会を逃すと仲間にならない恐れがある。
スミトは決断した。
「三日後に襲撃する。手下を全員、ここに集めろ」
「「「 へい 」」」
幹部たちが全員うなずいた。
ちなみに……
オトとスミトは一つずつ失敗した。
オトは行かせるべきでない晶霊を行かせて……
スミトは襲撃を一日遅らせた……
この失敗は後々に大きく影響することになる。
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