第34話 見つからない相棒


 リューグ家の貝合わせ大会から数日後……


 オトに言われるがままに各集落を回っている刀和が居た。


だが……


『そんなチビが来たところでねぇ……』

『いくら強くなると言っても困るわぁ……』

『そんなのそっちでやれよ』

『いらねーよそんなデブ』


 散々な酷評だった……


 確かに相棒は晶霊側からも喉から手が出るほど欲しい。


 一方で命を預ける大事な仲間なのだ。


 下手な奴に任せると逆に弱くなることもある。

 見た目が冴えないチビデブの刀和は『背中を預けたくない』奴になるのだ。


『こう見えて頼りがいのある所もあるから! 』


 トヨタマが説得を試みるが晶霊たちの評価は残酷だ。

 何しろ、命が掛かっているので、必然的に晶霊たちも慎重に見定めている。


 結局、この日も刀和の相棒が見つからなかった。


 トヨタマは歩きながら刀和を慰める。 



『元気出しなさいって! 彼らの見る目が無いだけだから! 』


 トヨタマが手の中に納まっている刀和を必死で元気づける。

 だが、刀和は頭を下げたままだった。


(自分はずっとこうなのかな……)


 そんな風に自虐してしまう刀和。


 トヨタマが歩いているのはリューグの各集落を繋ぐ街道で、街道の両脇には色とりどりのイソギンチャクが群生する綺麗な道だ。

 昼下がりのゆったりとした空気と共にイソギンチャクがゆらゆら揺れる中、刀和は落ち込んでいた。


「気にすんなって! あいつらが相手を選り好みし過ぎているだけだから! 」


 トヨタマの肩に乗っているオトも必死で慰める。

 すると、刀和がぽつりと呟いた。


「なんで……相棒を探し出そうとするんですか? 」


 その言葉を聞いて少しだけ困った顔を擦るオト。


「僕は……泳ぎも下手だし、運動も下手だし、頭も悪いし、こんな見た目だし……良いところなんて全然無いのに……どうして晶霊士にさせようとするんですか……」


 トヨタマは困った顔で目でオトに話せと伝える。

 オトはトヨタマにこくりとうなずいてから話した。


「あー……実はね……晶霊の相棒に勧めたのはシュンじゃなくてトワを勧めていたんだ……」

「……何を?」

「アカシの相棒に」

「……へっ? 」


 意外な言葉にきょとんとする刀和。


「そしたらアカシが『あの女の子の方が良い』って言いだして、結局シュンの方になっちゃったけど、最初からトワの方を晶霊士にさせようとみんなに話してたんだ」

「なん……で?」


 意味がわからずにキョトンとする刀和。

 アカシが瞬を選んだ理由は割とわかりやすい。

 機転が利いて活発な瞬は頼りになる相棒に見えるのだろう。


「あたいがビックリしたのが、初めて出会ったときにシュンに体当たりした時だった」

「あ~……」


 二人と初めて出会ったときはワニに襲われたシュンを助けようと体当たりしていた。


「それから、こっちに来てからシュンと色々話したけど、あの時は恐怖に震えるシュンを必死で慰めてさらに突破口を開こうとしたんだろ? 」

「まあ……そうだけど……」

「ああいうのが大事なんだ。泳ぎもまともに泳げないような人間が、武器も無しにワニに立ち向かう? それだけの度胸を持ってる奴はそうそう居ないよ? 」

 

 言われて困り顔になる刀和。


(追い詰められて必死で対応しただけなんだけどなぁ……)


 たったそれだけでそこまで大きな評価を貰えるとは思わなかったのだ。

 むしろ、刀和の方が困惑している。


 とはいえ、簡単に出来ることではないのも事実だ。


『そうよ。遠くから見てたけど、あれは凄いと私も思ったわ』


 トヨタマも弁護する。


『うちの晶霊兵の連中にもそう言ってお勧めしたんだけどねぇ……』


 困り顔のトヨタマ。

 どうやら知らない所で色々便宜を図っていたらしい。


「それに相棒になる時にシュンを止めたろ? シュンがちょっと勇み足になってるところを諫めたところとか、戦術に関してもキチンとわかっていた。だから向いてると思ったんんだ」

「あー……」


 刀和が苦笑する。

 そういう所もきっちり見られていたのだ。

 オトは笑って言った。


「だから気にすんなって! お前は絶対強いから! 」

「……ありがとう……」


 少しだけ涙が出る刀和だった。

 

 その日は持ち直した刀和だったが、結局、それからも相棒が見つかることは無かった。


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