第35話 太宰と大毅
その頃……
ツクシ国を含めた西海八州を束ねる西海太宰府では、あることについて会議が行われていた。
太宰(たいさい)とは付近の数か国を束ねる国司たちのボスで、今でいう地方長官の意味合いが強い。
正しくは西海太宰と呼ばれ、ツクシ国、ホウ国、ヒノ国、ヒュウガ国、オオスミ国、サツマ国、イキ国、ツシマ国の西海八州を束ねる太宰(たいさい)である。
太宰は中央より派遣された皇族が成る役職で、地方においては……
太宰 > 国司 > 郡司
の順番に偉いとされている。
その西海太宰ツツカワ親王と西海大毅ホーリの二人は居並ぶ八州の国司とその小毅、そして各郡の代表と共にある協議を行っていた。
「みなも知っての通り、海賊スミトは南海のイヨ国を襲って蹂躙している……」
『もはや、一刻の猶予もない。討伐隊を準備する』
ざわざわざわざわ
どよめく一同。
何しろ、事件が起きたのは南海六州イヨ国である。
西海太宰のツツカワ親王が口出ししてよい話ではない。
ある代表が声を上げる。
「勝手に南海に兵を派遣してよろしいのですか? 」
それを危惧するのももっともで、南海太宰の元にはツツカワ親王の伯父に当たり、実はごく最近まで今上神皇でもあった人物が居るのだ。
政争に敗北して無理やり退位させられた上皇が、左遷として南海太宰に送られているのだから、そこに派兵すると『上皇に弓を引く行為は反乱の兆し』と思われかねないのだ。
だが、ツツカワ親王は重い顔で言った。
「すでに海賊スミトの討伐について兄上に言ってある。南海へはイヨ国の救援も兼ねていると伝えた」
おおっ!
全員から歓声と安堵の声が漏れる。
このように政治とはひたすらにややこしいのだ。
あっちを立てればこっちが立たず。
だが、そう言った隙間にこそ悪党が潜むのだ。
ツツカワ親王の英断に感謝する国司たち。
実際問題、ここまでやってくれる太宰は少ないのだ。
西海太宰は非常に評判が良いのだが、関東太宰は『見て見ぬふり』をするので荒れる一方だと言われている。
「また、海賊スミトはこちらへ向かう可能性が非常に高い。うまく行けば西海内部で収まりそうである」
「「「「「おおっ! 」」」」」
安堵する国司たち。
正直に言えばややこしい事態は避けたいのだ。
「これより、兵役の割り振りを行う。準備せよ」
「「「「「はい! 」」」」」
そう言って兵役の割り振りが進められる。
すると、ある点で全員が顔を顰めた。
「リューグ郡司アント及び校尉カザナミ 20騎」
全員が訝し気な顔をする。
リューグはイヨ国に近いので海賊の襲撃もありうる。
兵役免除もおかしくない上にリューグの領土規模に比べて多すぎるのだ。
だが、すぐにその理由も分かった。
((((近侍も大変だな……))))
郡司アントはツツカワ親王のお気に入りで筆頭家臣のような所がある。
校尉カザナミもワダツミ一族の中では田舎の軍閥で、リューグ郡司も都で幅を利かせている門閥貴族とは繋がりが無い。
横のしがらみが少ない分、自由が効く人材なのだ。
実際、郡司アントは渋い顔で承っている。
近侍としての責務が苦汁の決断をさせているのだ。
親王からの絶大の信頼とは裏腹に苦しい自腹を切らされているのが実情だ。
とはいえ、全体で300近い晶霊を集めており、リューグは西海太宰府からも近い。
何かあっても派兵しやすく、ここは襲われないだろうと全員が考えた。
(まあ、大丈夫だろう)
ツクシ国の国司も一時的な問題で大きな問題は無いだろうと考えた。
だが、この対応がのちに大きな失敗を招き、それが刀和達に影響を及ぼすことになる。
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