第18話 女たちの朝


 男衆が掃除や洗濯などの力仕事をしている時、女衆はと言えば朝は食事と主たちの世話が主体となる。


 食事の準備は御釜でご飯を炊いて、みそ汁を作るのだが……


 汁物はどうしても飛び散ってしまうのでやかんで作ることになる。


 やかんと言っても現代日本人の考えるアレではなく、茶筒のような形の薬缶で、ここに水を入れて出汁を出すものを入れて沸騰させる。

 ある程度出来上がると寒天を入れてとろみをつける。

 海に近い世界なので海藻の養殖が容易なのだ。


 麦湯の場合は出来上がると竹の水鉄砲で中身を吸い取るとそれがそのまま入れものになる。


 こういった仕組みを使っているのだ。


 お膳も全体に必ず蓋をしないと、すぐに飛んで行ってしまうので蓋をして持っていく。

 

 楽に見えて色んな所が忙しいのだ。


(いろいろと理屈な仕組みねぇ……)


 ちなみに理屈なとは石川方言で「上手く出来てる」という意味だ。

 朝餉がある程度出来上がると先輩家人が瞬を呼んだ。


「シュン! オト姫様起こしてきて! 」

「は~い! 」


 朝餉の準備を手伝っていた瞬が泳いでオトのところへと向かう。


 あの一件以降、急速に仲が良くなったので『瞬はオト姫担当』になってしまったのだ。


 実はオトは寝起きが酷いので起こしに行くのが難しかったりする。


 瞬はすぐに泳げるようになったのと、活発で気が利く性格も相まってすぐに重宝されるようになったし、オトと仲が良い。

 二重の意味でオトの相手が適役なのだ。

 実際、初日の一件で共犯になったことから仲良くなり、今では色んな話をする間柄になっている。


 庭に面した廊下を泳いでいると、掃除している刀和を見つけたので手を振ってみる。

 残念ながら掃除に夢中で瞬の様子には一切気づいていない。


(それもそうか……)


 元から水泳部で泳げた瞬に比べて刀和は泳ぐのが下手だ。

 ましてや、バタフライなど泳げる人間の方が少ないし、普段と使う筋肉も違う。


 この世界は移動するだけ大変なのだ。


 自分の仕事を優先しようと瞬はオトの部屋に向かう。


 部屋は基本、夜の間は蔀を完全に閉じているので部屋が閉め切られている。

 完全に蔀(しとみ)で閉じられた部屋で蔀を一つずつ開けていく。


パタン、パタン……


 蔀(しとみ)は上へ折りたたんで収納できるようになっており、天上に付いている鉤先に引っ掛けると簡単に取れなくなる。


「う~ん……あと少し……」


 中で寝ているオトが寝言を言っている。


 オトも押し入れのような寝床に入って寝ている。

 違うのは扉の部分が少々豪華な襖になっている点だけだ。


 蔀(しとみ)を全て開けてから襖を叩いてオトを起こす瞬。


「う~ん……まだねむいよう……」


 襖の中の寝床でぐずるオト。

 尚も襖を叩く瞬。


「ほら起きて! また、チュラさんに怒られるよ! 」

「良いよ、別にぃ……だから寝かせてよぉ……」


 尚もぐずり続けるオト。

 業を煮やした瞬が大声で叫ぶ。


「ガンバ○ター! 発進! 」


がばっ!


 襖を開けて辺りを見渡すオト。

 オトは完全に目を覚ましたのか、恐怖におびえた目で刀和のガン○スターを探すが、それが無いことに気付いてほっとする。


「脅かさないでよ……今でもあれは怖いんんだから……」


 安心した顔で言うオト。 

刀和のガ○バスターはオトにしっかりとトラウマを植え付けたのだった。


「安心したからもう少し寝るわぁ……」

「いいから起きろ! 」


 そのまま寝床に入ろうとするオトを、腰を掴んで必死で引っ張り出す瞬。

 すると……


ぬっ


 庭の方から大きな手が出て来てオトをがっしりと掴んだ。


『いいから早く起きなさい! もう大人なんだからしっかりしなさい! 』

「わかった! 起きるから! 苦しい! 」

 

 相方のトヨタマに締められたオトはしぶしぶ起きて朝餉に向かった。



用語説明


寒天


 本来は天草などで作るゼリーの材料だが、ここで使われているのはトロミを付ける材料として使われているので本来の寒天とは若干違う。

 

 海藻から作る点では一緒。


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