第4話 お父さんと家族

お父さんとお母さんはよくけんかをしていた。そのけんかの声を聞くたびに、小さい頃は恐がって、だんだん大きくなるとお母さんを守ろうと必死に立ち向かうようになっていった。姉が二人いるが、姉二人は恐い父の姿が刷り込まれ、言い返すことはできないような状況になっていたように思う。兄もいるが、兄はそういう揉め事にはあまり関わらないタイプだ。わたしは、お父さんへの反抗心が強く、高校のころには、話かけてきてもかなりつらくあたっていた。お父さんとの衝突も数えきれず、殴りあいになったこともある。

今から思うとなんてことをしていたんだろう。

お父さんはわたしのことを「ちゃりこ」と呼んでいた。なぜ。何度か聞いたけど、いつも「ちゃりこはちゃりこや」とお決まりの返事だった。ちゃりこってなんやねん。

ある日、ネットで調べてみた。外国では、ちゃりこのことを確か鯛の稚魚とか書いていたような覚えがある。意味が分からなかったというか、納得できる答えじゃなかったからあまり覚えていない。

でも、この呼び名、嫌いじゃない。なんとなく愛着がある。

「ちゃりこ」「ごりら」「ちゃりこ」「ごりら」この意味のない言い合いを、お父さんが嫌気がさすまで数回繰り返していた。ま、お父さんはすぐに嫌気がさすのだけど。

ちゃりこから産まれた子どもには「おぎゃこ」とあだ名がお父さんによってつけられた。そして、おぎゃこは、いつも満面の笑みでお父さんから愛されていた。こんなに優しい顔をするのか、お父さんも。そんなことを思いながら子どもを通してお父さんのことを改めて見て過ごしていた。

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