第1夜はじまりはじまり
乙女ゲーム。
繰り返す夜を共に〜鼈甲の簪と鈴の音〜
通称夜共、は乙女ゲームをやっている人たちからすれば、誰でも知っていて当たり前、というほどに有名な作品。
あらすじはこうだ。
『気づいたら河原にいた少女、ユイ。
訳がわからず、放心していたユイに声をかけたのは、少し怖そうな男だった。
何故ここにいるのかわからない、というユイに、男は
ー俺のところに来るか?ー
と、手を差し伸べた。
迷いなくその手を掴んだユイを見て、男は満足げに微笑む。そして言った。
ユイ、今日からお前さんは俺の家族だ、と』
はっきり言って、よくわからなかったけども(私の弱い頭では限界がある)。
パッケージの絵に惹かれて買った。
金欠になった。でも、後悔はしていない。
さて、どうして急にゲームの話になったかって?
まぁ、特に話をしてた訳じゃないけど…。
実はね、私、車に轢かれて死んじゃったんですよ。たった今。
ただ今道路にて、頭がぐちゃぐちゃになった自分を見てます。おぇぇぇえっ!
吐けないけど吐きそう!
あ、で、何でゲームの話になったか、だよね!えーっと、それはね
「こりゃ派手に死んだねぇ」
何故か隣に神様?がいて、転生の話を持ちかけられているからなんだ。
私の名前は、えっと、忘れた。とりあえず、十五歳だった。
過去形なのはもう死んだから。
今は神様?とお茶をしてます。
え?状況がわからないって?
なんかね、周りが空みたいで、一箇所だけ透明の何かで覆われてて、その覆われてるスペースがどうやら神様?の家?らしい
え?それじゃないって?
それ以外はわからないわよ。
「お嬢ちゃん」
「あ、はい」
「歳は?」
「…女性に歳を聞くのは失礼だと思いますが、十五歳です」
「それは失礼。十五歳ね」
なんか突然話が始まった!
「私は…まぁ、神様みたいなもんかな」
「はぁ、そうなんですか」
「何でここに呼んだかは、さっき話した転生の件について。はっきり言うね、転生する?転生しない?」
直球過ぎない?
まぁいいけども。
「転生しなかった場合…」
「そんまま記憶が消えて輪廻の輪に戻る。罪があった場合地獄で「転生一択で」了解」
地獄ってあれでしょ?
体切り刻んだり、針山だったり、灼熱だったり。
嫌、嫌だよそんなの。私は逃げるッ!
「で、ゲームの世界に転生、でしたっけ」
「うん、おとめげーむ、だっけ?」
「乙女ゲームであってます。私の好きなゲームに、ですよね?それなら一つ候補があるんです」
「何かな何かな?」
「繰り返す夜を共に、鼈甲の簪と鈴の音って言うゲームに転生したいです」
「………うん、わかった、良いよ。手続きするから、そこでお茶飲んでまってて」
「はい」
「できれば女の子がいいよね?」
「はい」
ふぅ〜、これで地獄は免れた。
「あ、このお茶美味しい」
「それは良かったよ」
さぁ、こっから人生エンジョイしてやる!
「…頑張って、ね。本当の地獄よりも地獄だろうから」
「え?」
「それじゃ、いってらっしゃい。新しい人生でも幸せにね」
「え、あ、はい。ありがとうございました」
え、ちょ、今なんて言った?
“本当の地獄よりも地獄”?
それなら地獄行った方がいいんじゃ!?
なーんて思った時には既に夢の中。
あー、もう、やめた。寝よう。
でも、神様?の言う通りだった。
ここは、本当の地獄よりも地獄だ。
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