そして…時が見えた訳ではございません。
目と目で通じ合う…そんな芸当こざいません。
時間の感覚がおかしい。空間から切り離された…そう表現するのが精一杯の俺のボキャブラリー!空間から切り離されたことなんて無いからわかりませんがね!
とにかく、逸らす事すら出来ないこの瞳は俺を捕らえている。身動きも出来ない。
…しかし恐怖は感じない…なんて訳は無いのだが、それは敵意からではなく神々しい程の存在感に、である。
実際の現実がどのようになっているのか解らないが…いつの間にか壁や床が消え去り、宙に浮いた俺の目の前にいるそれは…先ほど月の前を通過していたクジラである。
『アナタが…レイヤ=タテガミなのですか?
聞き及んでいた個体との情報に著しい相違を感じますが…。』
あの野郎!こんな凄い存在とも繋がりがあったのか?
…それ程ならば…何故あんな所で命を落としたのか…。
『レイヤ=タテガミは命を落とした…ではアナタは違うのですか?
クルセイトを離れたあの子と一緒にいるアナタは何者ですか?』
心を読まれている!それに関してはもう驚かないが…クマとは違って、変なことを思い浮かべまいとすればする程に雑念が吹き出してくる!
え…と、このクジラは高貴な存在?…怒らせちゃいけない…何て言うのが正解なんだ!?怖い…悪いことはしていない!俺は巻き込まれただけだ!
『…うわ、ちっちゃいですねぇ…。心配しなくても大丈夫ですから…。』
くっ!
どうせアンタも精霊とかの類だろう!?別の世界の何の取り柄も無い一般人を面白半分に誘拐して来ておいて勝手な事を!
あ、何か腹立ってきた!
レイヤなんて、あんな文武両道な人間がそうそう居るものか!
きちんとリサーチしてから連れ込むならもっとマシな人間を……
リサーチをした…?
そうだ。この世界の精霊達は、いちいち個人を調べて連れ込んでいると聞いた。当の精霊の存在を見ることも会話をすることすら出来ない者達を。
何より、俺よりも遥かに愉快で役に立つ奴なんていくらでもいるだろうに…。
『…よく考える個体ですね。レイヤ=タテガミの事については理解しました。
なるほど、アナタが代わり…という訳ですか…。
少々頼りないようですが…彼が認めたのであればいいでしょう。』
もう何が何だかわからない。せめて少しくらい説明をしてくれてもいいだろう?
『怯える必要はありません、小さきものよ…。
分かりやすく言うと、ワタシは精霊に創られた存在。意思を持つ船…。
彼らと共にこの世界を旅しているのですが…あ…。
久しぶりにこの辺りを通ったら…
多少慌てた同胞が、あの子がいると教えてくれましてね。
しかし…なかなか興味深い運命の持ち主達と一緒のようで…。
ふふ…なるほど退屈はしないでしょう。
…あ、今のは我が主の言葉ですね…。』
俺は今、精霊と話しているのか!
『まだあるようです、続けます…。
そんなに構える事はありませんよ。
ただ、イタズラを越して悪意を覚えて楽しんでいる精霊も存在します。
気を付けて旅を続けなさい。
今回はちょったした挨拶です。
出会ったアチラの客人みんなにしてる事なんだからね!
アンタだけが特別だなんて思わないでよね!
…以上、主からの言葉でした…。
では、冒険者よ…いつかワタシの背に立つ時まで…御達者で!』
するとクジラは大きく身を翻して去っていった…なんだったんだ?
ハッと気がつくと元の浴室である。
いつの間にか衣服を身にまとってしまっているリア達が俺の頬っぺたをペチペチと叩いている…。返事をしたいが…身体が動かない。
リア「ちょと~…いい加減に戻ってきなさいなぁ~。
シュミカ~、お姫ちゃんの方はどう?」
シュミカ「んん…戻らない…クマ、本当に大丈夫?」
クマ「う~ん…とても優しい感じだったから大丈夫だとは思うんだけど…。
ぼくでもあんな高位の存在には遭ったことないからね…。
エイナちゃんは…アレだとして、
アサヒ君は魔力耐性が無いから…ちょっと心配だね…。
このまま目を覚まさないようなら…荒療治が必要かな?」
いや、俺は意識は有る!心は叫びたがっているんだ!全然心配いらないとクマに伝えなくては…ってか荒療治ってなんだよ!?こええなオイ!
少しずつ感覚は戻って来ている。
せめて…せめて俺にも服を着せてくれぇぇぇ~~!!
リア「…フフ、ちょっとイタズラしちゃおうかしらぁ…、目が覚めるかもぉ♪」
はい!ではお願いします!…いや、違うやめろ!
シュミカ「んん!動いた!」
俺の下半身のバカぁ!
エイナ「あぁ!!…はぁ…動けた…。」
あ…エイナの方か…良かった…。いや良くない…目の前の色情魔の目がヤバイ。
竜人って皆こうなのか?ならば来世は是非とも竜人に生まれたいとは思うが、今は節度を持って!お願い!っと身体に力を入れた途端に呪縛から放たれた!
…結果、リアの顔面に頭突きをかましてしまう…。
リア「んがぐっく!
………へぇ…いい度胸ねぇ…。」
ヤバイ…変に意識だけはあっただけに、『ハッ!?俺は何をっ!?』みたいな演技に持っていけない…。
俺「え…いや、リア…さん。大丈ぶぁぁああああああ!」
その時、突然左手に激痛が走る!あああ!骨があろうが無かろうが、手の甲全てを千枚通しで貫かれているような感覚だ(後日談)!貫かれた事ないけどねーー!
左手が床に固定されたまま暫くそれが続く。気が狂いそうに暴れる俺を皆が必死に押さえているのはわかるが…お願いだ…意識よ飛んでくれ…。
…どれ程の時間がたったのだろうか?もしかしたらほんの数分…数十秒程度だったのかも知れない。いつの間にか、舌を噛まない様にだろう…口の中に丸めた布がつめこまれていた。それを噛み締めながら収まりつつある激痛をなんとかやり過ごしている…。終わったのか?
脂汗でいっぱいの俺の耳に、皆が呼ぶ声が少しずつ届いてきた…。
「…サヒ……アサヒ…アサヒ…!」
エイナが呼んでいる…。まだまだ痛みは激しいが…お兄ちゃんがこれでは情けない。痛い?それは死ぬ程ではないという事だ!耐えられる…!
俺は気合を入れて顔に無理矢理笑みを作ると、みんなの顔をゆっくりと見渡しながら『ゴメン、もう大丈夫だ…ありがとう』と伝えたのだが…。何故だかクマ以外は怪訝な顔をして俺を見返している。
クマ「良かった…。
あ!そうだアサヒくん、みんなには言葉で言わないと聞こえないよ…?」
…クマ達が勝手に心を読んでくるもんだから、癖になっていた…。
そして…改めて皆に無事を伝え、この状況の整理をしたいと思う。
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