そして…別れ?の夜明けです。

ふと寝苦しさを感じて目を開けると、まだ日は出てないようだが薄っすらと明るくなりかけている時間だった。


飲み過ぎと言うほど飲んだつもりは無いが、水が欲しいな…。

妙に身体が重い…


まさかまた!?


俺「おい!いるのか、零也ぁ!?」


…と、無理やり身体を起こすと…「んなぅ!」…と声が上がって身体が軽くなった…。


…どうやら深夜に潜り込んできたエイナが俺の上に乗っかって寝ていたらしい…。


声はあげたが、どうやらまだ夢の中のようだ。大きなスパンで可愛らしい寝息を立て続けている。


そう言えばギリアさんの姿がない…。

もう起きているのだろうか?


とりあえず水場へ行こう…顔も洗って準備をしなければ。


どこだったっけ…とウロウロしていると…聞き覚えの有る声が聞こえて来るのだが…雰囲気的にコレは深入りしては行けないやつである。

向こうのためでは無い。


コチラが気を使う羽目になって面倒くさいやつだ!


わざわざ人の少ない時間に人の少ない場所を選んでいるのだから見つかったら最悪だ!


ここは下手に隠れたりせずにすぐ目の前に有る水飲み場へ辿り着いてコチラから音を立ててやるのだ!


それに気づけば向こうから距離を取ってくれるだろう…。


…二日酔いを味わったことの有る人ならばわかるだろう。

俺は今、隠れてやり過ごす時間なんて我慢出来ない程に水が飲みたいのだ!!


絶妙に向こうの死角であろう場所に辿り着き、わざとらしいアクビをしてからバシャバシャと水の音を立てて水分補給を済ませてミッションコンプリートである!


後は向こうが息を潜めている間に速攻でこの場を去るのだ!



ギリア「や、やぁ!おはよう!アサヒ君!」


…なんでアンタは空気を読まない…?



俺「ん?あぁ、おはようございますギリアさん。」


どうしたんですか?こんな早くに…なんて絶対に聞かない!

先手をとる!


俺「ぃゃぁ…目が覚めたらエイナに潰されてまして…昨日の酒も抜けてないので…

  ちょっと水を飲みに来ただけですよ…。

  トレーニングですか…さすがですね…

  でも俺はもう少し…寝…させ…て!いた…だき……ぃ!!!」


…と必死の演技で逃げ出そうとする俺を力づくで引き止めてくる!


ギリア「大丈夫だよ!彼女はもう居ないし、君に気づいてすぐに去っていった!

    …何処まで見ていた?」


俺「いや、本当に何も…。

  ただ、二人が視界に入った瞬間に防衛本能が発動して…。」


ギリア「…素晴らしい能力だ…今後その直感力は大きな武器になる!」


…嬉しくない。

とにかく、この件で本当に命の危険を感じた訳は…


ギリアさんにしがみついて別れを惜しんで泣いていたのがリアであれば一発殴られて終わりなのだが…まさかのシュミカだったからである!


命…捨てたくないんです!


俺を抑え込むために手八丁口八丁でエイナを俺の元へ送り込んだのだろうが…共倒れどころか、俺にとってはただの貰い事故だ!

変なトライアングルに巻き込まないでぇぇぇぇ!!


ギリア「…ちょっと、落ち着いて、落ち着いて…。

    私だってわかっていない訳じゃないが、リア君とは事情が違うんだ!

    

    …彼女は私の事を…『とおちゃ』…と呼んだんだ…。」


少し落ち着きを取り戻した俺とギリアさんは、水場の側に有る椅子に腰掛けて少し話をした…。


ギリア「ここよりも…少し南や西の方の土地ではね…

    伝わった言葉が少し違って…君たちの世界では…」


俺「方言と呼んでいますね。」


ギリア「そう、それだ。

    もう何となくわかるだろう?

    彼女はずっとね…

    『僕のとおちゃになって!死なないで戻って来ると地獄の契約をして!』

    ってね…。はは…。


    さすがに地獄の契約は…ねぇ…。」


俺「…次のクエストってそんなに大変なんですか?」


と尋ねると…深い溜息を吐いて…天を仰ぎながらギリアさんはユックリと…とても落ち着いて答えてくれた。


ギリア「…全然。」


俺「は?」


ギリア「…全然…楽勝の依頼だ…。

    もちろん思いがけない事故もあるかも知れない…

    でも、中級パーティ程度であれば余裕なものだ…。

    契約上これ以上は言えないが…。


    そちらも初級の冒険者たちでね…。


    君たち同様に…少し助け、少しずつでも強くなってもらいたくてねぇ…。」


さすが俺のお兄ちゃん…こうなりたいと本当に思う!


ギリア「だから…『すぐにまた会えるよ!』とも何度も言ったんだが…。

    昔、何かあったんだろうね…。

    

    あんな彼女だが…もう私の娘だ! 

    すぐに戻ってくるから、よろしく頼むよ!ははは!」


バンバンと照れくさそうに背中を叩いて来てるけど…マジで痛い!


エイナ「アサヒ---!アサヒ-----?」


俺「あ、エイナが起きたみたいです!  

  行ってやらなきゃ!

  もう日も出てきましたし、準備をしなくちゃ!」


ギリア「いや~、本当に君で良かったよ!

    

    よし!

    頑張って早く合流できる様に私もがんばらなくてはね!

    

    あ…コレは零也君達が言う、いわゆるフラグではないからね!」


俺「はは…わかってますよ!」


そこまでのやり取りを全て含めてフラグなのだが…しかし、やがて実際にキチンと合流する事にはなるので、それはそれでお楽しみに…!

 

…なんてメタっている場合では無い!


今度こそ日暮れまでに次の街までたどり着かなくてはいけないのだ!


俺とギリアさんを見つけたエイナが満面の笑みでくるくると回りながら駆け寄ってくる♪


かわいい…。


久しぶりに元気いっぱいの『ちんちん姫』が帰ってきたな。



完全に朝になり、馬と馬車の譲渡契約の為にレンタル馬車屋の親方さんに金額交渉に向かったのだが…

本当に子供のお小遣いにしても安すぎる金額で譲ってもらった。

        

スト…クルセイト王からはキチンと残りの代金は支払われるとの事で、

どうやら自分達で買ったもの…という意味合いを持たせる為の粋な計らいだったのだと勝手に理解して、勝手に最大の感謝を捧げさせていただこうと思った。


ありがとうございます!

むす@さん共々大切に、いつかお返し致します!!



例の…結局『ギル』と名付けられた馬はやはり馬だ。

元ご主人に「可愛がってもらうんだぞ~~」と頬ずりされれば愛おしそうにする。


リアは…

実の父母である親馬と、育ての親である親方さんが困り果てるほどの感謝の言葉を意味不明に吐き出しながら…どうにも先に進みそうに無いので流石にギリアさんに荷台へと放り込まれた。




そして、その後も少しドタバタしながらも…


リア「息子さんを大切にしますぅ~~~!」


と、言う言葉を残して俺達はようやく村から旅立った。






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