第5話 地下室
「お、ゲーム内と同じようなパーティウィンドウが脳内に展開されるのか」
「そうみたい。気になっていることがあって、私のステータスを見てもらっていい?」
「おう」
言われなくても見るつもりだった。
パーティメンバーはお互いのステータスを見ることができるようになるのだ。
では、さっそく。
『名前:スイ
種族:人間
レベル:九十
HP:二百五
MP:三百二十
変身時レベル:九百二
HP:千二百
MP:三千四百二十
カルマ:五百』
スイのステータスも見慣れたモノだった。ゲーム時と何ら変わりはない。
「ねえ、エランツゥオ」
俺のステータスを見ただろうスイが忘れたい名前で俺を呼ぶ。
「……その名前はちょっと……」
「表示名は本名なの?」
「ううん。それは適当につけた名前でさ。本名は
「ソウシはそのまんまなのね。じゃあ、私の名前も『スイ』とだけ表示されてる?」
「うん」
「二人ともゲームの表示名そのままってことは、現実の私たちのことは反映されていないようね」
なるほど。そこを確かめたかったのか。
彼女が確認したい気持ちは分かる。俺たちは手持ちのアイテムや装備こそゲームそのままなんだけど、容姿においては違う。
シロクマ時はともかくとして、人間の時の俺の姿は限りなく現実の姿に近いはずなんだ。
鏡を見ることができたらハッキリとするんだけど……。
自分の手の甲へ自然と目が行く。
手の甲の中央にはハッキリと小さな丸い染みがある。これは、俺が幼少の時にかかった水ぼうそうの跡なんだ。
染みの形も瓜二つと俺の手の甲の特徴に完全に一致する。
どこが日本にいたころの自分で、何をゲームから持ってきたものなのかを把握することは非常に重要だ。
スイもそうなのだろうか?
彼女は金髪に近い明るい茶色の髪をポニーテールにしていて、目の色は青色だ。顔は誰もが可愛いとか美人とか言いそうなアイドル顔負けの……ツンとした目も好みだ……いやそれはいい。
彼女の顔は日本人そのものなんだけど、髪色と瞳の色が日本人離れしている。
「私の目の色って何色?」
じっと見つめていたのがバレてしまったと思って焦った。
ここは誤魔化すしかないぜ?
「綺麗な澄んだ青色だよ」
「青に金髪……だったら、今の私の容姿はどこから来ているか分からなくなったわ」
「ゲーム内のキャラクターってわけじゃあないのかな?」
ゲーム内の彼女は金髪碧眼だった。
俺と違って彼女は容姿もキャラクターのまんまだったってことかな?
「分からないの。鏡があればいいんだけど……腕と手を見た感じ、キャラクターじゃなくて自分のものの気がするのよね」
「んー。顔だけ違うとか? 俺の見た目はどうなんだろ」
「黒髪、黒目だよ。顔は……ちょっと」
「ちょっと?」
何だよお。そこで黙らないで欲しいんだけど。
じとーっと彼女を見ていたら、ぷしゅーっと湯気をあげられくるりと後ろを向かれてしまった……。
「ちょっとだけど……ほんとちょっとだけど……カッコいいかなって……」
「ん? 聞こえないって。後ろ向いてそんな小さな声じゃあ……前を向いてハッキリと」
「いいじゃない別に! この話はこれでおしまい! 鏡を見るまで保留なんだから!」
「わ、分かったって」
余りの剣幕に一歩後ずさる。
自分の勢いに気が付いたのか、スイは首を振り親指の爪を噛む。
癖なのかな? それとも自分を落ち着かせるためのおまじない的な何か?
「一つ、気が付いたことがあるの」
強引に話題を打ち切られてしまったけど、スイの振って来た話の方が興味深い。
「どんなことだろ?」
ワクワクしながらスイへ問いかける。
すると彼女は上へ顔を向けた。
つられて俺も上に……天井にはプロペラみたいなオブジェがクルクルと回転している。
口を開けて眺めていたら、いつのまにか彼女は右を向いていた。
ん? 右に何かあるのか?
右はカウンターになっていて奥の棚に酒瓶が並んでいる。
「何か気が付かない?」
と言いながらスイは左へ顔を向けた。
そっちは入り口だな。両開きの扉になっていて、カランコロンと音がなる鈴が上部に取り付けられている。
「昼はレストラン、夜は飲み屋も兼ねるって感じに見えるけど」
「そうじゃなくって、この間取りに見覚えがない?」
「ん、んん」
テーブルの数、間取り……最初ここで目覚めた時にどこかで見たような気がしたことは確かだ。
ひょっとして。
スタスタとカウンターの奥まで歩いて行き、とあるポイントでしゃがみ込む。
コツコツと床を叩いてみる。反対側を向き、またコツコツと床を叩く。
お、おお?
返ってくる音が明らかに違う。
「どっしゃー!」
床の隙間に指先を入れ、捲り上げるように膝ごと腕を上にあげる。
――ドッシャーン。
勢いをつけ過ぎたようで、一メートル四方の床板がカウンターを越え天井付近まで浮き上がりカウンターの上に落ちた……。
「草壁、細いのに腕力あるわね……」
「い、いや。本来の俺にこんなパワーがあるわけないだろ……ビックリした」
そんなに力を込めていないのに。こいつはゲーム時のキャラクターの筋力が反映されている様子だ。
気を付けて力を使わないと、何でもかんでも破壊してしまうぞ。
「でも、これで確信したよ。ここは俺たちがゲーム内で使っていた『ギルドハウス』だよな」
「うん、間違いなくこの間取りはギルドハウスに違いないわ」
「ところで、スイ」
「何かしら?」
「そ、その。草壁は逆に気恥しい。ソウシで頼むよ」
「わ、わかったわ……男の人の名前を下で呼ぶことに慣れていないの……」
「そ、そっか……無理には言わなくても」
「ううん。私が知っているのは『トランスフォームオンライン』のあなただもの。だから、そ…そ……」
「ん?」
「もう!」
スイにそっぽを向かれてしまった。
腕を組み何やらブツブツ言っているけど、何を言っているのか全く聞こえてこない。
きっと何かしらの文句を述べているんだろう。たぶん。無理を言っちゃったからなあ……。
「ソウシ、降りるわよ」
「おう!」
床下には石を切り出したような階段が続いている。
地下には何を置いていたかなあ。記憶を掘り起こしながら、地下へと降りて行く
一見してただの酒場。しかし地下には秘密基地のように本部があるのだ。
ノリノリで作ったんだよなあ。ギルドハウス。結局地下はあんまり使わなかったけど。
さて、地下はどんな風になっているのかなあ。ワクワクしながら、足を進める俺なのであった。
◆◆◆
地下は苔むした石壁に石の床でできていて、広さは二十畳くらいだろうか。
家具類は革張りのカウチが一つで他にはロウソクが灯った燭台が左右に三台ずつの計六台。
天井は吊り下げられた裸電球がゆらゆらと揺れてぼんやりとした灯りが部屋を照らしていた。
「ようこそ我のシークレットガーデンへ」
足を組み肘置きに左腕を乗せカウチに腰かけた黒ずくめの男は、気障ったらしく顎を手の甲に乗せ不適にほほ笑んでいる。
男は二十代半ばほどで、長い銀髪に金色の目をしていた。
ぴっちぴちの漆黒の革レザーパンツに同じく体にピタリと張り付くナイロンぽい黒のアンダーウェア。更に、指抜きグローブがまた悪趣味だ。
まだある。整った切れ長の目やら顔の造形自体は美麗といえるんだけど、黒い口紅やらアイラインが痛々しい。
まだまだある! 口元と眉尻にピアス。両耳には何個あるのか分からんほどのピアスが付いていた。
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