第15話 ネーミングライツで収入を増やし、信用度を高める

「本日のママ友6人が集まった第1回経営会議は、代表理事に就任予定の私、山口亮が次のことを提案しています。

 開業初期費用と資金繰りを楽にする2つの方法。皆さんの自由度と責任感を高めつつ、集客も上げる方法。3つのうち2つは皆さんの合意を得ることができました。残る1つ、開業初期費用と資金繰りを楽にする、もう一つの方法について今から提案します。こちらも、東京都の創業助成金という方法と同じように、現時点では採用されるか否か分かりません。なぜなら、資金繰りとは、お金を出す側が決定権を握っているからです。しかも、お金を出す側は、ああしろ、こうしろと、口も出してきます。今から提案する方法は、金を出す側が、口も出す、民間企業からの資金繰りの一つで、ネーミングライツ、という仕組みです」


「あ、ネーミングライツ、知っているわよ。プロ野球の球場とかスポーツ施設の名称に、スポンサーになる民間企業が、その企業名かブランド名を入れる権利の売買よね? 確か、千葉マリンスタジアムが、ZOZOマリンスタジアムへ名称が変わったけど、ZOZOが何十億円も払った新聞に載っていたわよ」と、野球が好きな清美さんが言う。

「何十億円? ネーミングライツって、そんなに美味しいの?」と、愛子さんがつっこむ。

 私には何十億円というネーミングライツへの期待度を下げる説明が求められる。


「清美さん、詳しいですね。その通りです。ただし、ZOZOマリンスタジアムのネーミングライツ料金が10年で30億円強、年間3億円強なのは、あまりに多すぎます。プロ野球はテレビ放映もあるし、新聞に結果も載るし、例外的に金額が高い。市役所の体育館とか文化施設のネーミングライツ料金は年間50万円くらいです。プロ野球の球場と比べると、ケタが3つも違う。だから、私が提案する、お店の名称のネーミングライツ料金も、多くても年間50万円くらいです。でも、5~6年で300万円を得る可能性があります。ただし、まだ開業してもいない私たちの小さなお店にネーミングライツを払ってくれる企業は、ほとんど無いと思う。

 そこで私は自分が所属する会社の角紅へスポンサーにならないか、と提案してみたい。皆さんの合意が得られれば、という話です。つまり、5~6年で300万円を得ることと引き換えに、お店の名前は、子育てカフェ角紅、という感じになりますが、如何ですか?」


 ママ友たちは皆、だまりこむ。女性だから、たぶん、もっと可愛い名前にしたいのだろう。こんな苦しい局面で、いつも頼りになるのが由美の親友である香織さんだ。


「私は、子育てカフェ角紅、というお店の名前でもいいと思う。本音を言えば、私だって女性だから、もう少し可愛らしい名称の方がいい。でも、この後で代表理事から、私たちの事業で最大の懸案である、お店を何処から幾らで借りることができるか、という話があると予想しています。お店を貸す側って、高齢者が多いみたい。ということは、お店を借りるときに最も大切なのは、信用されることよね? 借りる経営者が三十路の女性6人、という印象より、一流商社の角紅がスポンサーとして付いているという安心感、信用って大切だと思うな。代表理事さん、角紅へのネーミングライツ提案、実現は難しいと思いますが、ぜひ挑戦をお願いします」と、香織さんは力強く後押ししてくれた。


「私からもお願いします」と、愛子さんが言うとすぐ、他のママ友も「私もお願いします」と言ってくれた。


「香織さん、皆さん、同意してくれて、ありがとうございます。これで私からの提案は全て同意を頂けました。残る課題は、香織さんの予想通り、お店を何処から幾らで借りることができるか、です。由美と私が豊洲で貸店舗を調べたところ、家賃は狭い物件で20万円。いいなあと思う物件は30万円を超えます。この価格だと、皆さんに給料という報酬を出すのはかなり難しい。皆さんに報酬を出す目的のためにも、本日の提案は全て実現できるようにベストを尽くします。次の経営会議で、東京都の創業助成金を申請する内容を確定します。皆さんは次の準備をお願いします。まず、店長になる曜日に出すランチのメニュー。利益を出すため、コーヒーなど飲み物の提供を核とするカフェという位置づけですが、ランチも1~2種は用意すべき、と考えます。次に、子どもの教育に良い音楽や木育おもちゃに触れる等のプログラムの内容。これを考えるには、店舗の広さを想定する必要があります。明日の日曜日、由美と私で豊洲駅から少し遠い場所を含めて、貸店舗を探す散歩をします。そこで店舗の想定を決めて、由美から皆さんへ来週の前半には連絡します。では、第1回の経営会議はこれで終わります。皆さん、お疲れ様でした」

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