第11話 幕間 ある女子たちの休日
「……なんかさ」
「うん?」
「あんた、可愛くなってない?」
「……どうだろ?」
「や、マジで。前に見たときと、全然違うけど」
「前に見たのって、いつだっけ?」
「3週間くらい前?」
「いやー。あの時期は、我ながら酷かったから、比べられても」
「口を開けば、仕事イヤーって言ってたもんね」
「ねー。今は楽しいから」
「本当、ご機嫌よね。なんかあったの?」
「昨日ね、褒められた。ご褒美ももらったよ」
「はあ、何もらったの?」
「いちごミルク」
「……やっす」
「えー? でも初めてだよ? 仕事を褒められたのも、ご褒美もらったのも」
「褒められるって、あんたの場合、慣れてるでしょ?」
「……それと、今回のは違うもん」
「あー……、最近はどんな感じ?」
「唐突に可愛いとか美人とかは減ったかな」
「すごいよね、そんな言葉を言われ慣れてみたい」
「もっと普段から色々気をつければいいのに。寝る前に間食はダメだよ?」
「逆に言えば、あんたはもっと乱れた生活してれば言われなくなるんじゃない?」
「……それは、イヤかなぁ」
「言われたくはないけど頑張る、矛盾だね」
「言われたい人から言われたいの」
「はいはい、乙女乙女。てか、あんたマジで乙女よね」
「誰かさんみたいに連続で失敗するよりは、マシじゃない?」
「22歳になって、一度も付き合ってない方がヤバいと思う」
「……実際、ヤバいのかな?」
「どうかな? こればっかりは男の人の感覚を訊いてみないと」
「男の人で、付き合ってないのってどう思う?」
「……年齢によるかな? 若ければ機会がなかっただけ、歳いってると問題がありそう」
「やっぱ、ダメじゃん」
「いいや、まだイケる。でも、そろそろ本気にならないとマズい」
「本気、……本気って何をすればいいんだろ?」
「あんた、外見は頑張ってるもんね。中身? テクニック?」
「テクニックって?」
「……、中身を鍛えよう。もしくは妥協したら?」
「妥協かあ。…………妥協かあ」
「嫌そうに言わない。ほら、こっち見てる男の人から選べ」
「……ぜったいイヤ」
「贅沢言うんじゃありません。そんな子に育てた覚えはないよ」
「いつからわたしのお母さんになったの」
「てか、何がイヤなの? 外見?」
「外見は、別にどうでもいいかなぁ。ある程度、清潔感があれば」
「じゃあ中身? 見てわかる訳ないじゃん」
「でも、あんな風にじろじろ見る人は、ちょっと」
「……いるの? じろじろ見てこない男」
「………………いる、けど」
「は? マジで、いるの?」
「いるよ。昔で言ったら、高校のときの先生」
「女子校の先生どもは、カウントしちゃダメ」
「えっと、あと、もう一人、いるっちゃいるけど」
「ほー。訊きましょうか。誰さ」
「……あ、飲み物なくなったね。今度は何飲む? 買ってくるよ」
「んっとね。キャラメルマキアートで」
「オッケー。ちょっと待っててね」
「ちなみに」
「うん?」
「飲み物持ってきても、話続行するからね。飲み物がなくなるまで、逃さない」
「……う」
「ほら、話しなさいよ」
「……むう」
「まあ、だいたいわかってるけど。会社の先輩さん?」
「……そうだけど。朝とかは全身を見て驚いているけど、それ以外はあんまり見てくれない」
「逆に、酷くない?」
「そう! 酷いんだよ! 何か一言くらいくれてもと思って」
「思って?」
「毎朝気合いを入れてます」
「……あんた、どんな格好で会社行ってんの?」
「や、カジュアルの範囲内で。今、くらいかな?」
「……それ、ひたすらジロジロと見られるでしょ」
「ああ、うん。それは大丈夫。人気のない裏道を選んで歩いてくれてるし」
「はあ。でも電車でしょ? 痴漢とかも寄ってこない?」
「それも大丈夫。毎朝守ってもらってます」
「守るって?」
「うんとね、向かい合って電車に乗るから、前は安全。後ろはカバンでガードしてくれてるの」
「……満員電車だって、言ってなかった?」
「うん」
「抱きついてない? それ」
「……仕方ないと思うんだ。わたしは、見知らぬおじさんと密着したくない」
「先輩さんは良いんだ」
「いい匂いがする。けっこう幸せ」
「え、本当に抱きついてんの? 先輩さんは大丈夫なの?」
「……大丈夫、じゃないかも。いつもラッシュが過ぎると、疲れてるし」
「そんな疲れる状況ってあんた、なにしてんの……?」
「なにって、身動き取れないから、よりかかってる、けど」
「けど?」
「周りから押し潰されないようにしてくれるし、わたしも支えてくれてるし。疲れさせてるなって」
「プラスあんたと密着してか。無駄に優しいのも気になるけど、なんで耐えられるの、先輩さん。草食系どころか植物系?」
「……なんだろ。わたしも含めてディスられてる気がする」
「気のせい気のせい。でも、嫌がってるなら拒否するよね。今のところ、そんな様子は?」
「ないかなぁ。たまに、ちょっと口元が笑ってるし」
「どっちなのかなぁ」
「どっちなんだろう」
「ちなみに、今日って先輩さんは何してんの?」
「えっとね。友達と遊びに行ってるってさ」
「お。聞いてるんだ。女かな」
「違うんじゃないかなあ、わかんないけど」
「よし、打診してみよう」
「打診って?」
「写真撮って、『友達と遊んでますー、何してますかー?』って送ろう」
「えっ」
「女だったら、これだけで揉める。男なら、冷やかされる」
「ダメじゃん!?」
「あたしもインスタにあげたいし、ほらスマホ出して」
「えっ、ちょっ」
「はい、顔認証。便利だねー」
「うわ、勝手に起動しないで!?」
「あっ、男の人って顔加工するの嫌いだから、素で送るかー」
「や、ちょっ、本当に送るの!? ちょっと!?」
「はい、美少女の顔をしてー。さん、にい、いーち」
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