罰ゲームは告白禁止 ~恋が苦手な新人と不能な社員の恋愛ごっこ~

S.A技師

第1話 不能な俺と、臆病な君と。

登未とみくんの、その、お、……が不能なのって、なんでなの?」


 何故、俺はこんなことを訊かれている?


 答えるのは、別に構わないが、もしかしたら聞き間違いかもしれない。

 確認は必要だ。


「すまん。なんて?」


 小声で聞き取れなかった点を問い質す。


「え、っと、お……ちんが不能」

「聞こえないんだが」

「……んちんが」

「あー? 聞こえねえな」

「聞こえてるよね!? 聞こえてなくてもわかるよね!? なんで言わせたいの!?」


 そんなものは、決まっている。

 腹いせだ。いや、どちらかと言えば、念晴らしが正しいが。

 話題に乗ることへの諦めを付けるという点で、正しい。

 

「俺の股間が膨らまないから、何だってんだ」

「あー……、そう言えばよかったんだ」

「はい、大きな声で。りぴーとあふたみー。股間が膨らまない!」

「こか……、じゃなくて。言わせたいだけだよね、やっぱり」


 どうだろうか。

 人によっては、そういう人もいるかもしれない。

 女性に幼稚な言葉を言わせて、恥ずかしがらせることを楽しむ男はいるだろう。

 ましてや、目の覚めるような可愛い女の子が相手だとすれば、実在する可能性は上がる。


「で? 俺の機能不全さんに、何の文句がある?」


 そんな目の覚めるような美しい女性に、俺は訊く。

 理由は、既に説明していたはずだ。

 それなのに訊ねる理由はなんだろうか。

 そして、この会話をどこに向けるつもりか、と。


「いえ、問題点を確認したくて」


 おそらく渋面と呼ぶには渋すぎる顔を、俺は浮かべている。

 眉間に刻んだシワが痛むほどだ。

 問題の確認などしたくないとアピールしたが、女性の口は止まらない。


「登未くんが、不能となった理由。それは、トラウマから、だよね?」

「……まあな」

「結果、女性に下心を持たない植物系男子となった。そうだよね?」


 淡々と自分の欠点と原因について語られると、腹立たしいを越えて、恥ずかしさを覚えてしまう。そしてほぼ暴言だ。植物系男子とは、自ら動かない受身100%の男子って意味だったはずだ。こいつは俺を何と思い、そして何の恨みがあるんだ。


「一方、わたしも問題を抱えています」


 女が胸に手を当てて、俺を見る。

 問題と口にした。俺も、こいつが抱える問題は理解している。

 俺は、目の前の女の目を見た。

 女も俺の目を見て、唇を開く。


「わたしは、男の人の下心が怖い」


 そう、こいつは他人の、特に異性の、更には下心を持った視線に、過敏で臆病だ。

 おそらく近傍で、こいつとまともに相対できるのは俺くらいだろう。


「わたしたちは改善を望み、しかし一人では儘ならない。そうだよね?」


 こいつがどう思っているのかまでは不明だ。

 だが、俺は治したい。

 だから、こくりと頷く。


「登未くんは、トラウマの克服。わたしは、男の人に慣れたい」


 女性は一度、深呼吸をする。

 目を閉じて、胸に手を当てて、息を整える。


「だから、……わたしは提案します」


 開いた瞳には、強い意志が込められていた。

 頬を僅かに赤らめて。

 ほんの少し躊躇って。

 二人のこれからの関係を決める言葉を、口にした。


「わたしと、恋愛ごっこをしよう」


 さて――、俺はどう答えるべきだろうか。

 そもそも、ごっこ遊びで恋愛とは如何なものか。


「……なんだかな」


 答えを探す。――いや、否定する言葉を探すため、時間稼ぎのように俺は呟いた。

 しかし、心の裡を幾ら探したって、否定の言葉なんか見つからない。

 見つけられるのは、この会話に至るまでの経緯だ。


――なんで、こんなことになってんだかな。


 目の前の美女――飯田いいだ 月夜つくよと遭ってから、今日、この会話に至るまで。

 思い出しながら、俺――宇田津うだつ 登未とみは、言葉を探し続けた。

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