刹那
chatora
第1話
いつだったか、恐ろしい程に美しい夕焼け空を見た。
そしてその夕焼け空を背景にその少女を見た時、私は何故か感動していた。
まるで一枚の絵画を前に、ひどく懐かしい気持ちになって忘れていた何かを思い出せそうな感覚を感じていたような気がする。
それ以来、私はその少女の事が気になっていたのだ。
ひどく落ち込んでいたある日、公園のブランコに乗って力なくゆらゆらと揺られていた私はその少女に声をかけられた。
「結那ちゃん、今日は元気がないね。」
大人びた物言いに何故か違和感を感じることもなく、私は力なく笑顔を作って尋ねた。
「どうして私の名前を知っているの。」
すると少女は事も無げに言った。
「ずっと前から知っていたよ。いつも結那ちゃんを見ていたから。」
そう言われた私には聞くべき事がたくさんあったはずなのどけど、何一つ考えがまとまらないまま出てきた言葉が
「あなたの名前は。」
それだけだった。
少女の表情は、嬉しいとも悲しいともとれる。
何だかよく分からない存在がそこにあるような気がした。
「刹那。」
唐突に言い捨てられたその言葉が少女の名前なのだと私は解釈した。
「そうなんだ。」
するとその少女はそのまま何処かへ行ってしまった。
相変わらずブランコの上で一人きりの私だったが、何だか嬉しかった。
思いがけずあの少女と関われた事に少しワクワクして、落ち込んでいた気持ちがほんの少し軽くなったような気がしていたのかもしれない。
しかし、それと同時に不安を覚えていた。
得体の知れないものと関わり、不用意に受け入れてしまう脆さと危うさ。
そしてそれを痛いほど認識しながらも、ただ流されるまま結果を受け入れて諦める事しか出来ない自分。
それが良いのか悪いのかなんて分からないけれど、私はその事がただただ情けなかった。
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