作業が着実に進んでいく中で、王様はかねてからの計画を実行に移そうとしました。

 「みんなで何か甘いものを作って食べたい」

 元々王様が町の片づけを始めたのは、この計画を実行するためでした。そしてある程度作業の進んだ今なら、ついに出来るかもしれないと考えたのでした。

 思い立ってからすぐに王様はお城の台所へと駆け込み、材料となりそうな砂糖や何やらを漁りました。

 しかし、どこを探し回ってもタマゴだけは見つかりませんでした。それもそのはずです。タマゴはこの間王様が大量に使ってしまったのですから。

 「ああどうしよう。かつてのわしのせいで、みんなに甘いものをあげることが出来ないなんて…」

 王様は頭を抱えました。昔の自分を恨めしく思いました。でもそうしても、タマゴは手に入りません。

 「お困りのようですね、王様」

 そんな王様に声をかけたのは魔女でした。魔女は座り込む王様に手を差し伸べながら、明るい口調で言いました。

 「大丈夫ですよ王様。今の王様はもう、昔の王様じゃありませんから。今の王様なら、150コのタマゴだって集めることが出来ますよ」

 「しかし、一体どうやって…」

 「簡単です。ないなら交換したらいいんですよ。素直な気持ちとちょっとの勇気で、お願いしたらいいんです。王様が本当にほしいものは一体何でしたか?」

 魔女はそう言ってから一つウインクして、王様の手を引いて立ち上がらせました。

 「今の王様には、それが出来ます」

 王様は魔女の言葉を聞いて、不思議と心が温かくなるのを感じました。そしてその熱をなくさないうちに、部屋に置いてある二つの宝物を抱えて町の方へと駆け出していきました。

 町につくと作業は一段落していて、みんなは思い思いに休憩をしていました。王様は人の集まっている場所に行って、そして大きな声で叫びました。

 「お願いじゃ!わしはどうしてもみんなと一緒に甘いものが食べたい!だからどうか、誰かわしの宝箱とタマゴを交換してはくれまいか!」

 王様はそこまで言ってから頭を下げました。地面に手を付け、目を真っ赤にして、声を震わせました。でも王様の懇願の後に続いたのは沈黙で、王様はすごく不安になりました。

 わしはまた失敗してしまったのか。わしはまた…

 「頭を上げてください、王様」

 その言葉に王様が顔を上げると、一人の青年がタマゴを差し出していました。

 「一つしかあげられませんが、それでも良ければこれをどうぞ。ただし、前回みたいなことはもうしないでくださいよ。それと宝箱はいりません。かわりに、その宝箱の中から僕に一番似合うと思うものを一つ、王様が選んでください。一つのタマゴと一つの宝。ピッタリな交換だと思いませんか?」

 青年の言葉が嬉しくて、王様は泣き出してしまいました。泣きながら「ごめんなさい」と「ありがとう」を一生懸命告げました。それから王様は優しい青年にとてもよく似合いそうな金の指輪を箱から取り出し、それをタマゴと交換しました。

 その様子を見た町の人たちはみんな、家からタマゴを一人一つずつ持ち寄って王様に渡しました。王様はタマゴと箱の中身を交換するたびに、心の底から「ごめんなさい」と「ありがとう」を言いました。それは今までかけてきた迷惑に対しての「ごめんなさい」でもありました。

 「王様、最後にこれを」

 王様がタマゴの数を数えていると、後ろには魔女の姿がありました。そしてその手には、一つのタマゴが握られていました。

 「これは、王様が王様と交換してください」

 そうして渡されたタマゴを握りながら、王様は心の中で唱えました。

 わしよ、素直になれなくてごめん。

 そしてわしよ、素直になってくれてありがとう。

 唱えた後、王様は宝物にしていた本を地面に埋めました。それはもう王様にとっては必要のないものでした。そして王様は自分の握っていたタマゴを、みんなと交換したタマゴの山の上に重ねました。こうして、実に150コものタマゴが集まったのです。

 そのタマゴの数は王様が今まで迷惑をかけた人の数であり、同時にまた、今王様のことを愛してくれる人の数でもありました。

 「ちゃんとほしいものは手に入りましたか、王様?」

 穏やかな風と共に、魔女の声が流れてきました。王様はその言葉に頷き、言いました。

 「ああ、ようやく。ようやくわしは、手に入れられたよ」

 王様は二つの宝物を失いました。しかし不思議なことに、王様はとても幸せそうな笑顔を浮かべていました。どうやら王様は、新しい宝物をちゃんと手に入れられたようです。

 それから王様は町の人たちと協力してメレンゲを作りました。もうセンタクキは使いません。みんなで分担しながら手を動かして、みんなで150コのタマゴからメレンゲを作りました。

 そして出来上がったフワフワのメレンゲを大きなオーブンを使って焼き上げ、みんなで出来立てのメレンゲクッキーを食べました。


 それから数日後、町は元通りになりました。壊れた家は全部修理されて、少し前と変わらない美しさを取り戻しました。

 しかし、少し前にはなかったものが新しく町には作られていました。

 それは「メレンゲ記念館」という建物でした。

 その中では、町の人々が王様と交換した格好いい剣や美しい宝石が展示されていました。そしてまた、その博物館の真ん中には一枚の絵が飾られていました。

 その絵には、みんなと一緒においしそうにメレンゲクッキーを頬張る王様の姿がありました。


 おや、なんだか甘い匂いがしますね。いったい何の香りでしょうか。

 「いらっしゃい。わしの焼いたメレンゲクッキーを食べていくかい?とても甘くておいしいぞ!」

 王様!いたんですか!?

 そうですね、それじゃあ折角なので

 焼きたてのメレンゲクッキーを一つください。


 おしまい。

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