破2
王様は次の日、まだ太陽も登らないような早い時間から町へと繰り出し、壊れた家の破片や道に落ちているメレンゲの片づけを始めました。すでに昨日の段階である程度は片付けられていましたが、王様は全てを元通りにするために、躍起になって働きました。
町の人々はその王様の様子を見て声を掛けました。それは激励ではなく、撃退のための言葉でした。
「おいやめろっ!あんたが何をしたって何も変わりはしない」
王様は聞かずに使えない木材を拾い、それらを一か所に集めました。
「もうやめろっ!そうやってウロチョロされる方が迷惑だ」
王様は聞かずに汚くなったメレンゲをまとめて、袋の中に詰めました。
その後も王様は町の人々の声を聞かずに片づけをずっと続けました。太陽が真上にきても、夕焼けが地平線に沈んで行っても、月がおやすみを言っても、王様は休まずに働き続けました。
王様はその中で、たった一度だけ声を発しました。
「家が壊れてしまった者はみんな、わしの部屋に泊まってくれ。少々狭いが、わしの部屋をみんなに貸そう」
王様は来る日も来る日も働きました。トンカチを使って家を修理し、ペンキを使って家の塗装をしました。おかげで町は少しずつ元通りになっていきました。
王様が働き始めて三日が経った日は、すごく風の強い日でした。それでも王様は休むことなく屋根の修理をするためにはしごを使っていたので、そのビュービューと吹く強風にさらされていました。
「あっ!」
一際強く吹いた風にはしごが激しく揺らされて倒れ、王様は屋根から降りれなくなってしまいました。風はやむことなくビュービューと吹き続け、王様はなんとか堪えていましたが、しかしさらに強い風に煽られてしまい、
「わあっ!!」
王様の身体は空へと飛ばされました。そして一気に地面へと落下していきました。
ぶつかると思い目をギュッと瞑るも、王様の身体はいつまで経っても堅い地面の感触を味わいませんでした。
不思議に思っておそるおそる王様が目を開けると、目の前にはたくさんの町の人たちの顔がありました。王様は町の人たちによって抱えあげられていたのです。
「気をつけろよな」
王様を持ち上げていた男たちは、そう言いながらゆっくり丁寧に王様のことを地面に下ろしました。それは本当に丁寧な扱い方でした。
驚いた王様は思わず訊きました。
「一体どうしてじゃ?どうしてわしを助けてくれたんじゃ?」
その質問には答えづらそうに、町の人たちは顔を見合わせていました。そして誰からともなくポツポツと語りだしました。
「僕たち、王様がひと時も休まず働いているのを見ていたんです。それに、これも…」
そう言って一人の男が一冊の本を取り出しました。それは、王様の宝物の本でした。
男は本を開き、何が書いてあるのか王様も含めてみんなが見えるようにしました。
そこにはこのようなことが書いてありました。
「わしはたくさんのともだちが欲しい」「わしはもっと人に囲まれて生活したい」「わしはともだちといっぱい遊びたい」「わしはわしを理解してくれる人が欲しい」「わしはともだちと原っぱを走り回りたい」「わしはともだちと買い物に行きたい」「わしはともだちとトランプがしたい」「わしはわしをちゃんと見てくれる人が欲しい」………………………………………………………
本一杯に書かれた王様のお願い。本一杯に書かれた王様の欲しいもの。
いばりん坊な王様は、素直になれない王様で、
おこりん坊な王様は、さみしがりやな王様で、
傲慢ちきな王様は、たよられたがりな王様で、
王様はずっとずっと「ともだち」が欲しくて、そのためにいっぱいいっぱい色んなものを集めてきました。
格好いい剣があれば、男の子のともだちができると思っていました。
美しい宝石があれば、女の子のともだちができると思っていました。
王様が本当に欲しかったのは、最初からたった一つでした。でもそのためにどうしらいいか分からなくて、王様はいろいろなものを宝箱にギュウギュウに詰めていました。
「僕たちは、王様のことを少し勘違いしていました」
町の人の言葉で王様は我に返りました。そして同時に、自分が泣いていることに気づきました。王様はいつの間にか、大粒の涙をポロポロとこぼしていたのです。
「王様、僕たちにも手伝わせてください。僕たちにも働かせてください」
王様は涙を流しながら、うんうんと首を大きく縦に振りました。それは王様にとって、なによりも嬉しい一言でした。
その夜、王様は久しぶりに部屋へと帰り、久しぶりにベッドで寝ました。すぐにでも作業に取り掛かろうとしましたが、王様の身体を案じた町の人々によって止められてしまいました。王様はかなり疲れていたので、その日はすぐに眠ることが出来ました。寝る前に本を読まなかったのは、初めてのことでした。
次の日から、町の人総出での修理作業が始まりました。力仕事が得意な者、計算が得意な者、図面を引くのが得意な者、励ますのが得意な者、色々な人が集まって作業が進められていきました。王様はその中で時にみんなとともに木材を運び、時にみんなとともに図面の前で頭を悩ませました。王様はどんな仕事でも喜んでやりました。王様にとって誰かと一緒に働くというのは、それだけで夢のような時間でした。
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