不死の華

雪ノ福

第1話 散華

「死にたくない」

何重にも囲われた防弾ガラスの奥、スピーカーから流れる震えた声に、比喩とかじゃなく、胸が張り裂けそうだった。

「死にたくない…!」

せめて、痛みはなく安らかに眠れるように。

生きているだけで罪とはよく言ったものだ。歩く自爆テロ、もはや宿主ごと破壊するしかなくなった美しい花が、白い胸から血を吸い上げて育つ。

俯いたまま、ガラスの最奥で震える手には、薬が握られていた。

「生きてよ…」

こちらの声は届かず、向こうの泣き顔は見えない。

刹那、けたたましい警告音と、耳を劈く悲鳴がガラスを震わせた。

「伏せろっ…!」

防弾ガラスが、2,3枚は砕ける音と、衝撃波。

「爆発が先か、それとも────っ!」

「被害の状況確認しろ、“犠牲者”を出すわけには、」

「怪我人いるか!?」

悼む暇もなく、悼むことさえ罪というか。

「うわああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

愛しい人は、もう二度と戻らぬ彼方へと逝ってしまった。

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