プロローグ 中
「一匹で何ができル?
あの”間(はざま)”を駆除しろ!!」
その怒号の応戦が戦いの火ぶたとなり、獣人とアクトは同時に駆け出した。
アクトが獣といったように間も獣人たちにとって人間に向ける貶す言葉のようだ。
アクトが走り出した瞬間に後ろにいた四人も到着する。
「まったく、詰めが甘いなウチのリーダーも。
ベル、さっさとその娘の格好をどーにかしな。」
「へいへい、わかったよ“サイ”。」
“サイ”と呼ばれた男は自分の白いマントも女に被せてベルに言うとやれやれと言った表情で腰にある鍵形の武器を剣に変形させて起動させるとアクトに続くように獣人達にむかっていく。
サイは丸刈りの小柄の男で、小柄な体には似つかわしいくらいガタイが良い。
ベルは、サイの言葉を聞くと自分の纏っていた白いマントも被せると鍵型の武器を杖のような形態にして起動させると女に向けた。
“心の0段〔じんの0だん〕”
杖の先から放たれた赤い雷は素早く女に被せたマントに広がり強く光を放ちながら3枚のマントを手袋とワンピースと靴に変えた。
女は中心が白で毛先が茶色の特殊の色をした長い髪をしており、火傷のような痣のある左目の周辺を前髪で隠している。
露になっている右目の瞳は茶色の小柄な女だった。
前髪から僅かにみえた痣をみたベルは一瞬だけ表情を歪ませる。
もっと早く助けられていたら…と。
ベルは首を振り思考を振り払う。
…先に怪我の治療だ。
驚く女をよそにベルは杖をもう一度女に向かって振る。
“心の1段 〔じんの1だん〕”
杖の先から赤い雷が放たれた、一瞬で女性の体を包むと怪我した箇所だけ発光して傷が癒えていった。
絶えず驚く女を気にも留めずベルは淡々と作業を進める。
今度は、杖を回転させて杖を足元に突き刺す。
“心の0段”
ベルを中心に赤い雷が周囲に広がると鍵穴のような大きな魔法陣が出現すると魔法陣の淵から飛び出すように雪が飛び出す。
その雪はベルと女の頭上で繋がり大きなドームになった。
「説明はしたいけど…それは後で。
流れ弾に当たらないようにそこの中で大人しくしてて。」
ベルはそういうと、鍵型の武器を今度は杖からアクト達がしている剣のような形状に変える。
“体の1段”
ベルが剣を振ると赤い雷が刀身から放たれてベルの全身を包む。
全身に雷が行き渡ったと同時に思い切り踏ん張った後にベルは走り出した。
走り出した速度は、かなり常人離れしている。
特殊な訓練などの騒ぎではない動きに女は目を見開いて驚いている。
「君は初めてかな?」
女は突然声をかけられて肩をビクッとさせた。
声の方を見ると黒髪の女がいる。
女の所に走りだす前にアクトに話しかけたフードを被った小柄の女、シオだ。
今は戦いやすいようにフードをとって黒髪のボブヘアーを晒している。
茶色の二つの黒い瞳は柔らかく光って女を映していた。
シオの鍵型の武器は既に剣に変形していて何時でも戦える状態のようだ。
「ボクは、シオ。
人間の切り札の一つ“ホープ”を操る組織“ノラ”の一員。
ホープは、変形する鍵形の兵器“キーウエポン”を使って行使する技術なんだ。」
シオと呼ばれた女は、こちらに向かってくる獣人に気がつくとキーウエポンと呼んだ兵器を剣から銃の形に変形させると女の盾になるように素早く移動すると銃口を獣人に向けた。
そして女に背を向けたまま話を続ける。
「詳しい話は追々で説明するけど…。
今は、強化の剣と治癒の杖と特殊兵装の銃が1つになった便利な兵器を使う人間の組織って考えてくれればいいかなー。」
“技の4段[ぎの4だん]”
シオの銃口から野球ボールくらいの大きさの風の弾が広がるように4個放たれた。
曲線を描くように飛ぶ風の弾は、ホーミング弾のように避けようとする獣人も撃ち抜く。
シオの弾幕から逃れて向かってくる獣人達がいたがシオはすぐに剣形態に変形させる。
“技の1段”
剣の刀身を炎で包み込むと獣人達に向かって走りだして軽やかな剣筋で獣人達を斬り裂いていく。
返り血も焼き払う程の火力のおかげか、シオの後ろにいる女に返り血も埃も死体の欠片も当たっていない。
「大丈夫だよ。」
シオ振り返って女を見ると、聞き取りやすい優しい声で声をかける。
砦の中から獣人の増援が現れ攻撃に激しさが増すと砦の向かい側にある高台から光線が放たれ始めた。
光線を撃っているのは、シオ達の味方のようで獣人達を正確に貫いていく。
今回はあくまで囚われている人間の救出。
できるだけ表側で騒ぎを起こして別働隊を補助することシオ達の仕事だ。
なので、ここが本当の作戦の始まり。
攻め込む勢いをノラの人間達は強めていく。
“心の0段”
ベルが杖の石突きを地面に刺すと周囲に雷を広げた。
広がった赤い雷は、小さく鍵穴のような魔法陣を4つほど出現させ魔法陣を中心に渦が発生させる。
そして渦が消えると同時にそれぞれの渦から白いユニコーンが現れた。
「襲え。」
ベルのその号令を聞いたユニコーン達は、前足をバタバタとさせた後に獣人達に向かって突進していく。
突進したユニコーン達の角は正確に獣人達を貫いていった。
「この…間風情がァ!」
そう吠えた獣人の一人が逃げてきた女性に目掛けて特攻をかけた。
空気を震わす程の叫びは、ノラ全員の注意を引くのに十分だった。
「喧しい!」
アクトは、腰にあったキーウエポンを剣にして獣人に向かって投げる。
銃形態にしなかったのは、銃口で狙いを定めている途中で攻撃されないようにするためだろう。
キーウェポンを投げた後にすぐに攻めきた獣人の攻撃を握っている剣形態のキーウェポンで受け止めた。
しかし、ちゃんと狙いを定めて投げていたわけでも無かった為にキーウエポンは避けられ女の足元に刺さる。
「もう…少しは後の事を考えて!」
そう悪態をついたシオは剣形態のキーウェポンの刀身を炎で包み込む。
”技の1段”
炎で包まれた刀身を獣人に向けて振ってその炎を飛ばしていく。
3回飛ばしたが火事場の力なのだろうか、炎はすべて避けられてしまった。
シオは小さく舌打ちを鳴らすと向かってきた獣人目掛けてキーウェポンを振り下ろす。
シオの斬撃は当たり右肩から右手にかけて切り落としたが、獣人は右手を斬り落とされても雄たけびを上げて前に進む。
女は、とっさにアクトの投げたキーウエポンを握る。
「非力なくせに何ができる!」
奪われるくらいなら殺す。
そう思ったのだろう、走りながら残っている左手に力を込め始めた。
獣人の本気の拳は簡単に人を殺せる。
例え、甲冑を纏っていてもだ。
しかし女は剣を掴み地面に引き抜いた。
「ぁあああああ!!」
直感的に自分もキーウエポンを使えることを知っていたから。
赤い雷を辺りに散らしながらキーウエポンを引き抜いた女はそのまま勢いに任せて獣人に向かって振り抜いた。
ビシャビシャと返り血を浴びながら素人ながら見事に獣人を横に真っ二つにする。
しかし、急になれないことをした反動がきたのかそのまま倒れてしまう。
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