4-9 雷と虚像

 まるで、焼き直しのような光景。万を超える観客の中、転生の儀にも居合わせていた十数人の高位魔術師の脳裏には、ティアの剣に胸元を貫かれ、そのまま倒れるアルバトロスの姿が思い出されていた。

 儀式の時との違いは、敵手の武器が剣でなく鉤爪である事、貫かれた部位が胸部から首へと変わった事、そしてアルバトロスの口元に笑みが浮かんでいた事くらいだろうか。

「ぇっ……!」

 掠れた声は、先の驚きから立ち直る前の観客の口から零れた二度目の驚愕。ヨーラッドの前でアルバトロスの姿が霞み、消えていく事へのものだった。

「шаффоф」

 呟きと同時に、雷が走る。稲光は声の元へと向かいかけ、しかし直角に方向転換してその先のアルバトロスの胴体を貫くも、次の瞬間には宙を掻く。

「あれは……?」

 誰かの、あるいは幾人かの口から呟きが漏れる。その最中にも雷は十、二十とアルバトロスの姿を捉えては掻き消し、を続けていく。しかし消滅するよりも速く闘技場に現れ続ける白の魔術師の姿は、いつしか二つ、三つと、同時に存在する数を増やしていた。

 自身を象った虚像の投影。後反応の回避ではなく、矛先を逸らす事によって、アルバトロスは雷速の攻勢を凌いでいた。

 複数のアルバトロスの虚像、その内の一つから炎が放射される。躱し、射出地点まで詰め寄るヨーラッドの脇からは、第二、第三、と像の数だけの炎柱が噴射。だが、いくつ数があろうとも、炎では雷の速度を捉えるには至らず、無傷で一つ目の火元に辿り着いたヨーラッドは、それまでと同じようにいとも簡単にアルバトロスの像を捉え、そこに実体が無い事を確認して反転していく。

 雷の速度の攻防、数秒の内に無数の像が消滅し続けるも、いまだにアルバトロスの本体は姿を見せない。対するヨーラッドも、炎、水、風、土と襲い来る魔術の束に捉えられるどころか掠りすらせず機動を続ける。

 雷へと変成したヨーラッドは勿論、一度の詠唱で無数の像を展開し、それを保ち続けているアルバトロスの技量もまた、一般人だけでなく魔術師から見ても飛び抜けていた。

「……これは?」

 だからこそ、その光景が殊更奇妙に、不可解に感じる者もいた。

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