押し入れのおばあちゃんが言うには

@samex

すいろにたおれる地蔵

僕が小学生のころ、通学路にお地蔵さんが立っていた。

二つの水路が重なって水量が増す水路。

そのすぐそばで、自然と目に入る場所にある。

祠の中にたたずむ、他と変わらない、姿かたちはなんてことはないお地蔵さん。

でも、そのお地蔵さんは時々倒れているときがあった。


ある時は、祠の中で寝転がるように横向きで倒れていた。

またある時は、祠の外であおむけでいた。

その日は夏の日差しでとても暑く、触ると熱くなってるだろうなと思ったことをよく覚えている。


その倒れたお地蔵さんだが、2,3日すると元の祠に戻っている。

近くで見たことはないのだが、汚れている様子はなかった。


倒れて、戻ることに気付いた僕は不思議に思って聞いたことがある。

押入れのおばあちゃんに。


押入れのおばあちゃんが言うには、あのお地蔵さんはそこに居たいから倒れてはんねん。勝手に触って戻したらあかんで。とのこと。


僕はそんなものかと考え、お地蔵さんが倒れていても戻っても気にしないでいた。


しばらくたって。

4年生のころ、大雨が降った。その帰り道。

一人で祠の前を通ったとき、またお地蔵さんがいないことに気が付いた。

でもその時は祠の周りにはお地蔵さんの姿がない。

水路に落ちたのかと思って、見てみようと近づいた。

水路は水かさが増し、流れも急だった。そして確かにお地蔵さんはそこにいた。


ぎょろり


そのとき、水の底からお地蔵さんが睨んできた。目が合い、恐怖する。

僕はその場から逃げ出す。

ときどき後ろをふり返り、追いかけてこないか確認しながら。


家に帰ると、寒さと恐怖で冷たくなった体を温めて、押入れのおばあちゃんに話しに行った。水路に落ちていたお地蔵さんに睨まれて怖かったという話を、しどろもどろになりながらも伝えることができた。


押入れのおばあちゃんが言うには、危ないから近づくなって叱られてんで。

水は気ぃ付けやなあかんで。ほんまに。


お地蔵さんに叱られたからか、押入れのおばあちゃんに言われたからか、僕は小学校を卒業するまで1度もその水路には近づけなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る