第8話〜古都

 数日後の喫茶室・ジョリン。


「ねぇ!今夜、古都こと行かない?ユリの歓迎会!」


 終業。3人は居酒屋・古都へ行く。会社の近くの居酒屋。社員の行きつけ、溜まり場だった。老舗旅館のような内装。女将さんも綺麗な人だった。


 テーブルには3つのビールのジョッキ。


「かんぱーい!」


 初めて古都に百合と来る葵達。葵は心配してくれた。


「ユリってお酒強い?弱い?」

「たしなむ程度なら…。」

「じゃあ、たまには来よ!」


 葵も舞も、いつもの笑顔だった。嬉しいと感じる百合。


「そういえば葵、彼と仲直りしたの?」

「今日はユリの歓迎会!」

「いいじゃない、親睦を深めるってことで。」

「えー…、うーん…なんだろうなー…仲直りしたのかしてないのか…。いつもこんな感じが続いてて、これからどうなるんだろ。」


 葵はビールを飲む。


「葵ね、3年間付き合ってるの。今の彼。」

「はい…。」


 恋愛の話をする、聞く。百合は初めての体験だった。緊張をほぐせますようにとビールを飲む。


「舞は?あれからどうなの?」

「なんにもない。私もどうしよう?」


 勇気を出して、百合も会話に入った。


「何が、どうしようなんですか…?」


 ビールを飲んでいた舞は困った顔をして答える。


「私は別れたばっかりなの。今はフリー。今、合コンってどうなの?」

「そのへん、香が詳しいんじゃない?聞いてみれば?」

「じゃあ一応聞いてみようかなー。」


 葵と舞、2人とも百合に目線がいく。


「ユリは?付き合ってる人いるの?」


 百合は顔を真っ赤にする。


「え?いるの?」

「どんな人??」


 真っ赤な顔をしたまま、精一杯の力で百合は答える。


「す、好きな人が、います…。」


 考える葵。


「ってことは、付き合ってはいないってこと?」


 百合はゆっくり頷く。さらに葵は聞く。


「もしかして片想い?」

「いーなー!今一番いい時じゃーん。」

「はい…?」

「だって、片想いって一喜一憂。ちょっとしたことで嬉しくなったり、ちょっとしたことで傷ついたり…。ユリ、今そんな感じでしょ?」

「んー…。」

「やっぱりー!いーなー!」


 話の理解に困る百合。2人のテンションとその場の勢いで言ってしまった。


「は、初恋なんです!」


 2人も航と同じ反応だった。


「はぁ?!」

「初恋…。」

「ほんと…?」


 百合に緊張が戻ってくる。


「ほんとです…。だから、どうしたらいいか、わからなくて…。」


 百合は小さく震えていた。それを見た葵と舞は百合に優しかった。


「そっか、じゃあ今つらいね。」

「その人と会ってる?」


 緊張に堪え、百合は答える。


「まだ、2回しか会ったことありません…。」

「連絡は?」

「ラインなら、なんとか…。」


 葵と舞の作戦会議が始まる。


「これからどうしよっか…。舞ならどうする?」

「私なら…とりあえず会う!会いたい!会ってその人のこと沢山知りたい!」

「相手からは?誘ってこない?」


 百合は首を横に振る。まだ百合は震えている。


「じゃあ、こっちから動くしかない…。」

「ユリ、その人に会いたいと思わない?」


 航と最後に会ってからまだ間もない。会いたいと思っていいのかさえ、百合にはわからなかった。でも舞に聞かれて気づいた。


「できるなら、会いたい…。」

「じゃあ、会おう!」


 葵が即答した。舞も言う。


「会おう!だって会いたいんでしょ?」


 百合は素直に言う。


「会いたいって、思っていいんですか…?」

「当たり前じゃない!好きな人と会いたいのは当然のこと!ね?葵?」

「そう!それから…、ユリの場合、少しずつでいいから、もっと自分に素直になっていいんじゃない?」


 もっと2人は百合に優しかった。百合の緊張は止まらない。止まらないが、2人に打ち明けてどこかすっきりした百合。話してよかったと百合は思った。背中を押され、前に進められそうな気さえした。初恋の話、それができたことは百合の中ではとても大きなことだった。


「ユリ、その人のこと、ほんとに好きなんだね。」

「ユリの恋愛成就のために乾杯しよ!」

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