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そんな事を思い立ってまず僕が訪れたのは小さな旅行代理店だった。
店先には誰もいなかったから
「あのう...」
声を出して尋ねると
「誰だね」
ひどく面倒臭そうに初老であろう男の声が返ってきた。
「旅行に行きたくて...」
「旅行ね、勝手に鞄でもなんでも持って行っちまえばいいさ、それに網膜投影装置と触感デヴァイスなんかがあれば家の中で現実となんら変わらない“旅行“が出来るじゃないか」
確かにそうだった。
道具さえ揃っていればこの町を出ずとも“旅行“なんていとも容易くできるのだ。
だけれど、しかし、僕は、
「僕はそんなものをではなくて、この足と身体で何処かに行ってみたいんですよ」
何故かそんな気分になっていたのだ。
退屈を紛らわす、それは偽物の世界を観るだけでは解決できない問題で、新しいこことは別の場所を、見て回ることでなんとかなるんじゃないかと僕は考えている。
「ほう、だからこんな町外れの、すでに存在理由が無くなりかけている店なんかに来ちまったのか」
「まぁそんなとこです」
「へぇ、そんでアンタは何処へ行きたいんだ?」
その声とともに右腕を機械化した大男がぬっと店の奥から現れたのだった。
結局悩んだ末に僕は死んだ星、地球を選択した。
代理店の男は歓楽星、パラダイススターやバカンスにと火星への旅行を提案してくれたがそもそも僕はエンターテイメントや癒しを求めているわけではなかったのでやんわりとお断りをして地球を選んだ。
選んだと言っても特段すごい決め手があるわけなんかじゃないのだけれど。
強いて言うならもう人が住めない、僕たちの祖先が生きた、謳歌した、僕のように退屈している人もいたかも知れない、その残骸に少しの敬意と興味が湧いた。
そんな事が決め手だったのかもしれない。
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