第2話
高山拓人は、ある日、小説投稿サイト「小説GO」で何か面白い小説はないか検索していた。高山は、普段はイラスト投稿サイト「イラストUP!」にイラストを投稿しているが、気が向いたときに「小説GO」で物語を読んでいた。というのも、たまに掘り出し物のようなおもしろい物語が見つかるからである。
その日は、「タイツのお姫様」という物語が目についた。短編の枠で投稿されているが、短編として投稿できる字数制限10万字に迫る長めの物語である。ひとまずそのタイトルをクリックして小説のページを開いた。
その小説は、主人公が男子大学生のラブコメであった。主人公は、ある日突然、異世界にいた美少女と出会う。しかしその美少女は異世界では、ある王国のお姫様であった。主人公はその美少女や幼馴染、友人との間で揺れつつ、美少女がいた異世界でのいざこざにも巻き込まれ、最後にはその美少女と結ばれるも、美少女はもとの世界に戻っていくという話である。物語全体としては、筋が通っていた。しかし、話の細部で理解不能なところが多々あり、話があまり頭に入ってこない。
まず小説の最初の一行は、「今日は、待ちに待った80デニールのタイツが届く日である。」だった。高山は、これだけ読んだところで、主人公は女の子なのかなと思ったが、よくよく読んでいくと、主人公は男子であることが分かった。
次に、主人公は、待ちに待ったタイツが届くと、「僕は、匂いを一度かいでみた後、その冷え切ってしまった中古のタイツを、もとの持ち主のぬくもりを求めて電子レンジであっためた。(中略)チンという、懐かしく、子供のころに肉まんなどをあたためようとしていた時のあの待ちわびた音、自分の大好きなものにありつけることを知らせるあの幸福の音を聞くと、僕はすぐに電子レンジの扉を開けた。すると、そこから、先ほどのタイツではなく、タイツをはいた美少女が現れた」。
中古のタイツを購入したことはひとまずおくとして、電子レンジでタイツを温めようとしたことについて、人工的なもので人肌のぬくもりを求めようとするところに、主人公の寂しさ、哀れさを強調しようとしたのかなと思ったが、高山は、人肌を求めて電子レンジを使ったことがなかったので、想像すらできなかった。
もう一つ気になったのは、この小説の重要な場面と思われるところだ。異世界でのいざこざが終わり、そこで主人公に助けられた友人が主人公に告白するが、主人公がそれを断る場面である。主人公は、友人にこう言った。「ごめん。やっぱり、僕はタイツが好きなんだ。80デニールのタイツじゃなきゃ、人を愛せないんだ!」
その友人の女の子は、告白したその日ニーソをはいていてそれが理由で断られているような気がした。それに、主人公の幼馴染は、その女の子に対して、次のようなことを言っている。
「ふん、あなたって、佳男のこと、何も知らんねんな。ニーソやったらアカンに決まってるやん」。
ニーソ娘の不遇な扱いが、高山は気に入らなかった。
そんなわけで、高山は、その小説を読み終わると、「タイツのお姫様」の作者である電子レンジとかいう人にコメントを送った。
「私は、絵を描いているのですが、ぜひ、あなたが、私の描いた女の子を題材にしたライトノベルを書いていただけませんか」
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