仮面

アスキ

1日目

それは或る民家の二階だった。僕は風呂上りに新品のコートを羽織り、片方を失ったスリッパを探していた。片割れが見つかるころには、すっかり髪は乾き、約束の時間を超過するのに十分だった。

ライター、巻き煙草、薬・・・それらをポケットに一緒くたにし、錆びついた様な階段を下って行った。一階ではリビングへと繋がるドアが開いており、二十歳前後といった短髪の青年が話しかけてきた。

「あの駅のホームには幽霊が出るって」

「出勤でもするのかい」

僕は青年に顔を向けず苦笑交じりに答えた。

「なんでも、レイン・コートを着た姿らしいんだ」

「雨が恋しい年ごろもあるということか?」

「終電すぎの二、三時頃は気を付けた方がいいよ」

僕は彼の言葉を後ろに、玄関へと沈んでいった。

今日は格別気分が良い。僕はブーツを履いて立ち上がり、未知へ通じるドアを開錠した。そして家の前に停車しているバスに乗り込んだ。行き先は精神病院であった。

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