君の血の側はいつもうるさい
佐久良 明兎
学祭! 学祭! 学祭! よろしい、ならば女装だ
(1)メイド服は全ての始まり
「よぉ。いい姿になったじゃねぇか」
出てきた
対して、不満を全面に押し出した表情で緋人くんは眉を寄せる。
――見目麗しい、メイド服姿で。
ドンキなんかにあるような、いかにもコスプレという感じの服ではない。ミニ丈ではなく、踝まで届く長さのスカート。テカテカした布地ではなく、肌馴染みのいい実用性もきちんとあるのだろう着心地良さそうな素材だ。ごてごてとした飾りはなく、クラシカルに楚々としたデザインで仕立てられた、古き良き素晴らしきメイド服である。
これだけでも大変に眼福であるというのに。
まして、これをあの緋人くんが着ている、というのだ……!
いわんやハイテンションをや。
やばい。怒られるから唇を必死に噛んで堪えてるけど、にやにやとときめきが抑えられない。ときめきトゥナイト。いや昼間だからときめきデイタイム。
当の本人は。笑顔の貴公子ともあろうお方が、その渋面も本性も一切隠そうとせずに、恨みがましい目を環に向けた。
「ちゃんと着たぞ。これで文句はないだろ」
「まだだ」
環は緋人くんの言葉を食い気味に遮ると、準備していたバニティポーチを取り出した。チャックを開けると、机の上にクリームや化粧水を次々並べる。
「今のままじゃお前は、ただ女物の服を着ただけの野郎だ」
「……嘘だろ」
これから環が何をしようとするのか察して、緋人くんはたじろぐ。
「どうしてそこまでやらなくちゃいけないんだ」
「ただ服さえ着りゃいいってもんじゃねぇ。女装なめんな」
「ただの学祭の余興だろ!?」
「クオリティに妥協することは俺が許さん」
そう言って環は緋人くんを椅子に座らせると、手際よく保湿から始めていく。されるがままになりながら、緋人くんは仏頂面を決め込んだ。
二人のやりとりを、私は少し怖々、本音を言ってしまえばニヤニヤ全開で見守っていた。
あれだな。
普段は
今の服装のことを差っ引いても、何かに記録を残しておきたいな?
「ビデオでも持ってくればよかったねぇ」
そんな彼女は、いつものようにノーブルな姿――だけれども、ちょっと違った。
彼女も彼女で、凄まじく様になりすぎている、執事服姿である。
藍ちゃんの台詞が聞こえてか。
しかし緋人くんは、なぜか私をじろと睨んだ。
「後で覚えてろよシロ」
私のせい!?
私のせいなの!?!?!?
……まあ、私のせいか。
鋭い視線から逃れようと藍ちゃんの背後に隠れようとしたけど、その前に環が、緋人くんの頬をがっと掴んだ。
「動くんじゃねぇ奥村! よれる!」
「知らないよそんなの」
「つべこべウルセェ。いいから黙ってろよ吸血鬼」
両手で頬を挟み、環はぎらついた眼差しを浮かべる。
「俺がお前を、最高の美女に仕立て上げてやる」
そう言って環は、唇をぺろりと舐め上げた。
……環に謎のスイッチが入ってるぅーーー!
無駄にエロい! 良い!!!
そしてスーパー攻め様が!?
まさかの受けに!?!?!?
攻めと攻めの攻防で打ち負けたスーパー攻め様!?!?!?
なにそれ楽しいかよ!?!?!?
あっやばい鼻血出るだけど温存しなくてはこの先身が持たないぞぅ!?
鼻の頭を強くつまみつつ……ともあれ。
事の発端は、数週間前のことだった――。
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