第14話王子とデート

「ふぅ…」


(やっと抜け出せた…)


レオンハルト王子はアルフノーヴァの授業中に資料として見せられた変化する実を盗み取り機会をみて使おうと隠し持っていた…。


ユリウスとシリウスが丁度席を外した隙をつき、実を食べると姿形を変え王宮に出入りする商人達に紛れ込み王宮の外へと抜け出すことに成功していた!


見た目が違うレオンハルトに門番達も気が付かず、あっさりと抜ける事が出来た。


(よし!やっと自由だ!たまには息抜きしないとな…)


「さて、何処に行こうかな…」


(ミヅキの所に行ってみたいが…すぐに捕まる可能性がある…)


折角の久しぶりの自由だ、すぐに捕まっては面白くない…レオンハルトはミヅキの事は諦めて市場へと向かう事にした。


「おお!店が沢山ある!」


「あははは!坊主王都に来るのは初めてか?」


市場の様子に驚いている王子にお店のおじさんが声をかける


「ぼ、坊主?俺のことか?」


「お前以外に坊主は周りにいないだろうが?」


おじさんが怪訝な顔をする。


「いや…そのように呼ばれるのは初めてで…」


「ん?なんか変な喋り方だなぁ…まるで貴族様みたいだな?」


ギクッ!


「なわけないか!そんな格好で貴族様が市場をうろつくわけないもんな!所で坊主はなんか食いに来たのか?」


「ま、まぁそんなところだ!」


「ならどうだ?うちは串肉を売ってるんだ!」


焼きたての串肉を見せると…


ぐぅー!


お腹がなる


「ははは!そうだろ、そうだろ!美味そうだろ!ひと串銅貨二枚だ!買うか?」


「あっ!」


金を忘れた…


いつもユリウスかシリウスが金を払うので王子はすっかり金の事を忘れていた…


「金が…無い…」


ガクッと肩を落とすと


「そりゃ残念だなぁ…家に戻って金を取ってきな」


(家に帰ったら、捕まってもう来れるか!)


レオンハルトは渋々店を離れようとすると…


「どうしたの?」


この声!


レオンハルトが振り返るとそこには会いたかった人がいた!


(ミヅキ!)


「お金忘れちゃったの?」


ミヅキが聞いてくる


「あ、ああ…」


ソワソワしながら答えると…じぃーっと見つめられる。


思わず頬が赤くなり視線を逸らすと


「ぷっ!」


可愛い笑い声が聞こえる。


「おじさん!串肉二本下さいな!」


ミヅキがおじさんにお金を渡すと


「あいよ!」


おじさんが串肉をミヅキに渡す、その一本をミヅキがどうぞとレオンハルトに渡してくれた。


「いいのか?」


「うん!そんなにお腹鳴らしてる子に我慢させるのも可愛そうだしね」


ふふふと笑って自分の分の串肉を食べると残りを従魔にあげている…。


あっ…居たんだ…


そこにはあの、コハクと言う憎き黄色い狐がいた…


「君、名前は?」


ミヅキが串肉を食べ終えてレオンハルトに話しかける。


「俺?俺は…レオ……。」


「レオ…?」


「レオ!レオだ!」


「ふ~ん…レオね、よろしくねレオ。私はミヅキ」


(ふぅ…バレて無いようだ)


レオンハルトは内心慌てた…ここで素性を教えたらきっとミヅキはユリウス達に知らせに行ってしまう。


そう思い、つい嘘をついてしまった…。


よろしくと挨拶を返すと、コハクがクンクンとレオの匂いを嗅ぐ。


「どうしたの?コハク?」


「な、なんだ?なんで嗅ぐんだ?」


レオが慌てると


「何?男の子なのに獣が怖いの?」


ふふふっと笑われると


「ち、違う!」


「ふふ、ウソウソ!コハクはレオがどんな子かなって確認してるだけだから」


ミヅキが笑ってコハクを撫でている。


「ところでレオは何してるの?お金も持たないで市場に?」


「いや…」


思わず言葉に詰まると


「もし暇なら付き合ってよ!私これから市場で買い物するの!荷物を持ってくれると嬉しいな!」


「喜んで!」


「えっ?」


「あっ!いや、暇だから…喜んで付き合うよ!」


「ありがとう、お礼に何か食べたいものがあったら奢ってあげるよ」


そう言ってウインクする。


(やった!ミヅキとお出かけだ!これって…デート…だよな?)


レオ行くよ!


と先に歩き出すミヅキを追ってレオンハルトは胸踊らせてついて行った…。


お目当てのお店の前に来るとミヅキは真剣な顔で品物を見ている。


その横顔を見つめて幸せに浸っていると…


「痛っ!」


コハクがレオに噛み付いた、そんなに見るなと言っているかのように…


「レオ?どうしたの?」


「いや…なんでもない。それで?何を買うんだ?」


「うーん、なんか珍しい食材がないかなぁ…って見てるんだけど…あっ!あれ!」


ミヅキが興奮してレオの腕を引っ張る、突然腕を掴まれてレオは固まってしまった。


「あれ!あれ!レオちょっと取って!」


しかしレオは動かない…不審に思いレオを見ると顔を赤くしていた…。


「えっ?どうしたの?レオ…風邪?」


「はっ!いや!息止めてた!」


「なんで…?まぁ気分が悪いわけじゃないんだね?」


少し心配そうに顔を覗き込まれる…。


「大丈夫だ!そ、それで?どれを取るんだ?これか?」


ミヅキが指を指していた方にある野菜を取ると…


「そう!コレコレ!色が違うからわからなかった~おばさん、これってナスですよね?」


ミヅキがお店のおばさんに声をかける。


「そうだよ、おじょうちゃんナスなんか好きなのかい?」


「うん!大好き!」


グッハッ!


(ミヅキの笑顔からの大好き…)


レオが顔を押さえて横を向く、そんな様子に気が付かないミヅキはおばさんとナスの話題で盛り上がっていた。



「こんなに買ってどうするんだ?」


「ふふふ…秘密~」


大量のナスを買い込むとレオは荷物を受け取り歩き出した。


「大満足!レオは何処か行きたい所とかあるの?」


「俺か…?そうだなぁ…あんまり知らないから、ミヅキの好きな場所を教えてくれよ」


「私のおすすめ?私もあんまり王都は詳しくないんだよね…」


うーんと腕を組んで考え込む。


自分の為に真剣に考えようとしてくれる事に嬉しくなっていると…はっ!と顔を輝かせる!


「レオ!こっち!」


ミヅキはレオの手を引っ張ると人混みの中を走り出した。



人の気配も少なくなり…結構な高さまで坂を登った気がする…。


レオは黙ってミヅキについて行くと…


「ここだよ!」


ミヅキがバッ!と手を広げると…そこは王都が一望できる高台だった。


「凄いなぁ…」


レオは王都の街並みを見つめる、そこには忙しく動く王都の人達が小さく見えた…


「凄いよね~こんなに沢山の人がいて、みんな一生懸命働いてるよ」


「ああ…」


ミヅキは腰を下ろすとレオを隣に座れと促す。


レオは恥ずかしそうに隣に座ると…


「どう?私のおすすめの場所?」


「凄い綺麗だ…」


「そうだね…これも国王様達のお陰だね」


「国王の?」


「国王様がきちんと国を治めていてくれるからこうしてみんな幸せそうにしていれるんだよね」


「そうか…」


「どうする?まだ遊ぶ?」


「いや…もうそろそろ帰らないと…」


レオが少し寂しそうにしている。


「また、遊んでくれるか?」


「えー?まぁまた気が向いたららね!」


「なんだそれ?酷いな」


二人で笑いあった…。



二人は出会った場所へと戻ってくると…


「じゃここで…」


レオがミヅキに手を振るとミヅキも振り返してくれる。


くるっと向きを変えて王宮を目指し歩いて行った…が途中気になってまた振り返ると…そこにはまだミヅキが自分をみつめていた。


人混みの声に紛れてなんと言ってるのかは分からないが…レオに気が付き背を伸ばしてまた一生懸命に手を振ってくれる。


レオは気持ちが昂り走り出した…。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「行ったかな…」


ミヅキはレオが見えなくなると、くるっと振り返り路地を見る、そこには…


「ユリウスさん!」


ミヅキが声をかけた…


「ミヅキ!気がついていたのか?」


「勿論!だって王子が一人でこんな所にいるはずなんて無いもんね!」


「それで…付き合ってくれていたのか?」


「まぁ…たまにはね!本人も自分が王子って言うつもりなかったみたいだから…」


「いい息抜きにきっとなったよ!ありがとう」


「シリウスさんにもよろしくね!」


王子について行ったであろうシリウスさんにも言付けを頼むと、ユリウスさんが苦笑いをする。


「たまにならみんなで遊びに来てもいいからね!なんか…レオンハルト王子も頑張ってるみたいだし」


「ああ…伝えておく」


「あっ!伝えなくてはいいよ!ユリウスさん達のついででね」


そう言って笑うとミヅキは帰って行った…いつの間にか肩には赤い従魔と横に寄り添う黒い従魔を従えて…。

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