かーくんの妄想短編集
涼森巳王(東堂薫)
第一話 殺されたのは君の声(ミステリー)(ミステリー)
遺言にかくされた罠
一冊の本から、この物語は始まる。
厳密には本とは言えないが。
革表紙で装丁されたハードカバーの手帳だ。
題名を入れるところがあり、『私が死ぬとき』と書かれていた。外から見たかぎりでは、市販の本にしか見えない。
「見てくれ。
喫茶店のテーブルの上に、
ふんいきのいいクラシカルな店内に、ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番が流れている。
テーブルをはさんで、
めんどくさそうな目つきさえ、異様に妖しい。
お世辞ぬきに言っても、絶世の美青年と言えるのは、この世に彼一人しかいないだろう。少なくとも彼を見たあとでは誰しもそう思う。そんな美貌だ。
あいかわらずだなと、綾野は思った。
八重咲を前にすると、なんだか
「それで、僕にどうしろと?」
八重咲は長い前髪のかげから、ちろりと綾野をすくいあげるように見る。
「どうって、先月、守屋が死んだんだよ」
「知ってる。ニュースで見た」
「じゃあ、察してくれよ。これを読めば、守屋の死因がわかるかもしれない」
「死因は
「まあ、そうだけど。自殺にいたったわけというか」
「興味ないね。君は学生時代の数少ない友人だから来たが、つまらない用なら呼ばないでくれないか。僕は忙しいんだ」
立ちあがろうとする八重咲を、綾野はあわててひきとめた。
八重咲は大学を卒業したのち、私立探偵になったという。
学生時代から異常犯罪心理学に傾倒し、悪魔を崇拝しているだとか、オカルティックな犯罪ばかり追ってるとか、いや当人が犯罪者なんだとか、怪しいウワサには事欠かない。
性格も悪いし、変わり者だし、つきあいづらいのだが、頭脳はずばぬけてよかった。顔と頭の出来だけで、神さまがコイツの長所のすべてを使いつくしてしまったのであろう。
「いや、でも、守屋だって君の友人だろ?」
「友人だった、だ。死人はもはや存在しない」
「冷たいな……」
気持ちがなえかけたが、綾野は気をとりなおした。
「じゃあ、生きてるおれのために、いっしょに考えてくれ。おれは守屋が死んだのは、ただの自殺じゃないと思うんだ。守屋を自殺に追いこんだヤツを探したい」
八重咲は無言で手帳を手元にひきよせた。
綾野がすでに何度も読みかえした内容に、八重咲が目を通すのをじっと見つめる。
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