桜の木の下で
勝利だギューちゃん
第1話
「ねえ、約束して」
「何を?」
「わたし、もうじき引っ越すの?」
小さい頃、仲良く遊んでいた女の子。
まだ、5歳くらいだったか・・・
このくらいの年頃は、異性として意識することなく遊ぶ。
僕たちもそうだった。
毎日が楽しかった。
でも、いつまでも続かない・・・
「パパがね。フランスにひっこすの」
「フランス?どこ。」
「わからない。でも、飛行機で行くって」
「いつ帰ってくるの?」
その言葉に、女の子は泣いた。
「ごめんね。当分無理なの・・・」
「どのくらい?」
「50年は先・・・」
その時は理解できなかった。
50年が途方もなく長い事を・・・
「で、約束って」
「もしね。覚えていたらでいいんだけどね」
「うん」
「50年したら、帰ってくるから・・・」
「うん」
「この桜の木の下で会おう」
こうして、その子とは別れた。
去る者は日々に疎し。
いつしか、その子の記憶はセピア色になり、輪郭だけになり、
そして・・・
僕は、いつしか普通の生活をしていた。
普通に学校に行き、普通に就職をし、普通に結婚をし・・・
今の世の中、普通である事が一番贅沢な夢かもしれない。
そして、50年が経った。
子供たちは独立し、孫は出来た。
妻とは、まあ上手くやっている。
ある日、孫を連れて散歩をしていた。
すると、桜の木の下を通りかかった。
あの子の事を思い出した。
「この桜だったかな・・・まだ咲いてたんだ」
すると、後ろから声がした。
僕と同じ歳くらいの、ご婦人だ。
でも、面影があるような・・・
「覚えていてくれたんだ。ありがとう」
記憶がよみがえっていた。
消えていたものが、形を作り輪郭となる。
そして、色づき始める。
そして、かつての女の子だったご婦人がそこにいた。
桜の木の下で 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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