暴走狼と怠惰な鷹

@v_alpha

第1話 鷹は眠りたい

 あ、ありのままに、今、起きたことを話そうと思う。

 俺は今朝、"になった"らしい。で、これから"戴冠式・・・と舞踏会が執り行われる"らしい。

 何を言ってるかわからないと思うが俺もわからん。というか解かりたくない。


 俺さ、今日も素敵にのんびり引きこもりな1日を過ごすべく、無事、太陽が空のてっぺんにかかったくらいに起床したんだ。

 そしたら、俺の部下の代表格3人がベット脇で控えてて「陛下、お早うございます」とか言ってきやがったんだ。

 洒落だって思うだろ?『いよっ!お大尽!』とか『ねぇ王さまぁ、わたしもう一本ブドウ酒飲みたいネ』とか、そういう類のだと思うじゃない?

 普通それで自分が国王になったとか、頭のおかしい勘違いしないよな?なんならむしろ遅くまで寝てることに対する嫌味かと思うよな?

 それでさ、俺は寝ぼけてたのもあって、その時は突っ込まなかったんだ。もっかい寝るから起こさないでって言って、そのまま二度寝したよ。

 なのにさ、次に目覚めたら、俺の右腕的立場のやつがさ、床で正座してるわけよ。あ、正座ってわかる?獣人独特の習慣なんだけどね、膝揃えて足畳んだ座り方。畏まった時にしたり、相手を敬ったり、謝意を伝えたり、反省を示しすのにしたり、敵意がないのを伝えるのにしたり、まあ、汎用性の高い意思表示の方法なんだけど。

 寝起きで横見たら、正座して、瞬きもせずにじっとこっち見上げてる奴がいるとか、びびるじゃん?

 そんで「申し訳ありませんでした、陛下」とか言われたら、さすがに今度はスルーできないでしょ?で、聞いたらさ、「二年もかかってしまい……どのような処分でも甘んじて受ける所存です」

 とか今にも切腹しそうな思いつめた表情で言うわけですよ。いやもう慌てるよね。

 普通に理由聞くよね。

 聞いたらさ、俺がいつの間にか国とれって命令したことになってる。

 おかしくない?

 おかしいよ!断じておかしい。

 おかしいけど、うちの部下どもが暴走するのはこれが初めてじゃないから、なんだかんだ慣れてるよ。無駄に優秀なやつらそろったせいで、冗談みたいなこと現実化してきやがるからすげー質悪いんだよ。


 え?俺が誰かって?そ、そうだな。あまりにも突然のことで少々混乱していたようだ。失礼。

 まず自己紹介だな。

 俺はセーシュ・エリウス・ファルケ。ここエウアスト王国の端っこに、猫の額くらいの領地を持ってる貧乏伯爵家の長男。弟と妹がひとりずついる。

 伯爵家って言っても、名前の重みなんて羽のように軽い。

 なんせ莫大な戦費で火の車の台所を備え付けてるうちの国は、金と引き換えに爵位を乱発してて、石を投げれば貴族にぶちあたるって状況なんで。公爵サマなんかは流石に少ない(それでも30人からいる)けど、伯爵なんて数えるのも嫌になるくらい蠢いてる。国民皆貴族なレベル。

 ついでに言うと、国王がエロオヤジだから姫とか王子もわんさかいる。聞いて驚け。王位継承権第100位とかまで決まってるんだぜ。

 ……うん、俺が国王になるとか意味がわからない。

 ああ、歳は20ね。一昨年、無事にかったるい貴族(笑)御用達の王立学院を卒業しました。まじで辛かった。何が辛いって、全寮制の寄宿学校とかふざけてるとこだったから、生活全部管理されんの。

 日が昇る前に起きなきゃなんないんだよ。信じられないでしょ。しかも上の学年の連中がやたら偉そう。雑用とかめっちゃ押し付けてくる。1年は強制舎弟だから兄貴一人選べっていう、死ぬほどウゼェ伝統がある。あと触ってくる手つきがたまに怪しい。俺は全部余裕でかわしたけどね!

 まあ、でも俺も一応、学院在籍中にやっときたいことがあったから、そこはそれなりに頑張ったよ。

 ナンパを!!

 ユーうちの領に来ちゃいなYO!って。

 将来、楽したいから、適当に優秀なの見つけてはくどいてました。なんせ、田舎領主なもんで、まともな人材探そうにもいないんだよね、地元だと。知識とかは置いといて、地頭もあんまよくなかったりすんのよ。話が噛み合わなくて困る。いちいち全部説明すんのも疲れる。口が。

 さらに言うと、都合の悪いこともいいことも全部、なんとかって神様のせいにして何も考えないんだよ、これはうちの領だけじゃなくてお国柄なんだけど。

 思考がすごく省エネ。

 俺より頭使ってない点は羨ましいと思う。

 あんな、台車持ってこないと運べないレベルで分厚くて大量にある教典ルールブック、読む気にならないから、俺にはできない。

 思考放棄という究極のエコロジーを成し遂げた連中は素直に尊敬する。

 人生、若いうちに苦労しろって言うじゃん、年寄り連中は。

 あいつらそれを地でいってるよね。大量のルールブックを苦労して覚えて、あとはそれに従って生きりゃいいんだから、すげぇ楽だと思うわほんと。

 ただ、それはそれとして、さすがに意思疎通できないのは本当に疲れるんで、最低限はなんとかしろって親父に言いました。だってあのままだとあいつら、他国の商人に好き放題カモられて餓死しそうだったんだもん。

 神様はさ、あいつらの心は救ってくれるかもしれないけど、明日生きてくパンもブドウ酒も保障してはくれないからな。ついでに、同じルールブックに従ってプレイしてない他国の商人れんちゅうにルール遵守を求めるとか何言ってんのってなるでしょ。ルールを守るか決めんのは本人で、他人には強制できないんだよ。

 個人レベルではね。国とかは大きめのバックボーンがある権力は別。

 だから領内で対応統一して周知して、適切に処理する必要があったんすよ。


 そのうち解決するんだろう。うちの親父めっちゃ優秀だし。けど、それでも即戦力が致命的に足りんのよ。

 だからワタクシ、中央に出てきているこの機会に、なんとかしようと決意してました。一応跡取りだしな!

 6年間、目ぼしいやつに声かけまくって、うまいこと付いてきてくれる連中も集まった。何人かには条件出されたりもしたけど、そこもうまく処理した。

 財布の関係で雇えなかったけど、最後の方は立候補してくれる人なんかも出てきて、俺の地道な努力も捨てたもんじゃないなーと思えたよね。またやるかは別として。

 そんな感じで引き抜きに成功して、人手も確保できたし、親父はまだ30代で、あと30年くらいはピンピンしてるだろうし、執務なんて全て親父と部下どもに丸投げして俺は夢と希望の食っちゃ寝生活を送る予定だったのに。

 予定だったのに!

 なんだよ国王って。

 とりあえず事情聴取をせねばならない。ああ、だるい。


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