愛してないなら

猫屋 寝子

「愛してないなら、抱きしめないで」

別れ



「君は、これからどうしたいの?」


 そう尋ねた私に、彼は何も答えない。二人の間に沈黙が流れる。


 私は彼が何を考えているのか理解しようと、彼の表情を見た。彼の表情はどこか悲しそうで、それが答えなんだと分かる。


 私はそんな彼の優しさに耐えられず、自らその答えを言った。


「別れ、よっか」


 彼は苦しそうな表情のまま「分かった」と言い、私を抱きしめる。耳元で、彼の小さな謝罪の声が聞こえた。


 ――謝るくらいなら、嘘でも私を愛してよ。


 そう思ったが、嘘をつけないのが彼の良いところであり、彼の好きなところ。こんな人を好きになった、私の自業自得のような気もした。

 彼を責めきれない自分に、思わず苦笑いを浮かべる。


 そんな中、ふと自分の服が濡れていることに気付いた。


 ――どうして濡れているんだろう。


 そう思って彼の顔を見ると、彼の涙が彼の頬を伝っている。


 私は彼の気持ちが分からなくなった。


 ――どうして、彼は泣いているの。私のことなんて、愛していないくせに。


 揺れる気持ちを抑えて、私はゆっくりと彼の腕をほどいて離す。


 これ以上、彼に心を乱されるのは嫌だった。このままだと、私が私でいられなくなるような気がした。


 私は彼にサヨナラを告げるよう、無理に笑顔を作る。


「いつか、心から愛せる人に出会えるといいね」

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