16-1 目覚め
温かい闇の中にいた。規則的な鈍い音。体が言うことをきかないものの、不思議と、それさえ心地良かった。
遠くから、声が聞こえる。くぐもっていて、よく聞き取れない――
――〈ジェラール〉。
聞き覚えのない、けれどなつかしい声。
そして思い出す。自分が、何者だったのかを。
◆
「――ッ!」
ジェラールは飛び起きた。
彼が置かれていたのは、見慣れない場所だった。漆喰塗りの壁にサイドテーブルとイス、そしてジェラール自身が寝かされているベッドがあるだけの、簡素な部屋だ。扉がひとつ、窓はない。
イスには、確かにジェラール自身の歩行補助杖が立てかけられている。
ふと視界に違和感を覚え、左目に手をやれば、はまっているはずの義眼がない。
ジェラールは、くぼんだまぶたをなでながら、これまでのことを思い返そうとした。
確か、カキドを探して、
〈――僕は、あなたの傍にいるべき人間じゃなかった〉
カキドの言葉が、ジェラールの内に蘇る。
彼女の奇妙な言動のこと。彼女に義眼を奪われたこと。見たことのない妙な魔術のこと――いいや、はたして、あれは本当に魔術なのだろうか?
なにもはっきりとしない中、唯一わかることは、カキドが
このことを支部の兄弟たちにどう伝えればいいのか、カキドをどうすべきか、ジェラールにはまだ考えられずにいた。
まずはここを出て、一度
部屋の扉に歩み寄り、手を当てたジェラールは、かすかに魔術の気配を感じ取った。しかし、取っ手をひねってみれば、容易く扉が開いた。魔術で封じられていたわけではないらしい。
扉の先は、上階へと続く階段になっていた。先ほどの部屋は地下室だったようで、上階からは
ジェラールは、『遮蔽』の魔術で足音を消そうとして、思いとどまった。扉から感じた魔術の気配からして、自分をこの場所に連れ去った者の中にはきっと、魔術師がいる。下手に魔術を使えば、相手に察知されかねない。
階段を数段のぼり、上階を覗き見ると、二つの人影が確認できた。片方は一般民、もう片方は魔術師の匂いがする。
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