14-7 断絶

 一度支部に戻ろうと立ち上がりかけたときになって、ライナルトは、魔術師狩りの一団がすぐ近くまで迫っている気配を感じ、体を緊張させた。

 この場を離れようにも遅く、継承者の気配を察知したらしい『とらわれ者』が、ライナルトの隠れている通りの前で足を止める。


 もう気づかれている――ライナルトが戦う覚悟を固めた一方、相手の『とらわれ者』は、一般民らにせっつかれてライナルトのそばを離れていく。



 見逃されたのだろうか。いや、それにしては妙だ。

 彼ら、闇雲にはぐれ魔術師を探しているというよりは、まるで、目指す場所でもあるかのようだった。


 もう一つ。現在の火の都フラメリアにおいて、魔術師と一般民の生活圏は、ほとんど完全に分離されている。

 一般民の社会に迷い込んだわずかなはぐれ魔術師のために、これほど大規模に魔術師狩りをするというのにも違和感があった。



 一般民らが、自分たちの優位性を示すためだけにあの鐘を鳴らしていることも考えられなくはないが、そうであれば、『とらわれ者』を伴う必要はないはずだ。

 彼らが『とらわれ者』を使う目的といったら、同じ継承者を見つけさせるためなのだから……。



 そこまで考えたライナルトは、心の内側が粟立つような感覚に襲われた。精神にさざ波が立つような、精神『同調』に近い感覚。



 ライナルトは、今度こそ立ち上がった。

 何かがおかしい。だが、不安の正体がどうにもわからない。継承者としての第六感が、こうしてはいられないと叫ぶばかりだ。


 幸い、火の都フラメリア支部からは、まだそう離れていない。

 ライナルトは、『とらわれ者』の鼻を避け、人目のない路地を縫うようにして、エントランスへのゲートがある廃倉庫に急ぎ戻った。



 廃倉庫は、ライナルトが出て行ったときと変わらず、しんとしていた。

 ライナルトはほっと息をついたが、内側の第六感は落ち着くことなく何かを訴えかけてくる。もはや、何も不安などないはずなのに。


 立てかけられた扉で隠されたドア枠――ゲートを覗き込んだライナルトは、おかしなことに気がついた。

 継承者であるライナルトが間近にいるにも関わらず、ゲートが開かないのだ。ドア枠は背景を透かし見せるばかりで、魔術の気配さえ感じさせない。



 戸惑いながらもゲートを調べたライナルトは、やがて、第六感を震わせるものの正体を、認めがたくも悟った。

 ゲートの転移魔術を動かしていたタンクからの魔力供給が、このとき、まったく絶えていたのだった。

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