13-7 勝つ、そして

「ここは狭い。審判をこちらに退がらせるが、構わないな?」


 幼いウィリアムを間に立たせたままでは、全力が出せない――ライナルトのそんな意図を察したか、それとも状況にかかわらず勝つ自信があるのか、ルーヴェンスは異論もなく肯く。



 ライナルトが手招きをすると、すぐにウィリアムが走り寄ってくる。ライナルトが手こずっているのを見てか、その面持ちは不安げだった。


「次兄様……」


「大丈夫だ。引き続き、審判として――いや、それほど重く考えることもない。立会人のようなものだと気楽に構えて、役割を果たしてくれ」


 ライナルトはそう言うと、ウィリアムの頭を軽くなでてやってから、自分の背後に待避させる。



 ライナルトの中で、人質さえ逃がすことができればという思いは、もはや霞んでいた。

 この男に勝つために、あらゆる手を尽くす。そしてそれは、勝つためではない。そうでなければ、これほど心が高揚するものか。

 


 ライナルトは、知らず微笑んで、ふたたびルーン列をつむぎはじめる。

 早口でもたっぷり五秒。単純な魔術のときとは比べものにならない、大きく密度の高い魔法陣が編み上げられていく。


 長いルーン列はやがて、いくつもの火花に収束した。

 火花らは、燃えるような軌跡を残しながら、壁を、床を、天井を伝い、ルーヴェンスの元へと奔っていく。

 


 敵にひっそりと近づき、対象の元に到達すれば爆発する、やや複雑な魔術。

 この術の短所は、爆発するより前に相手に認識され、無効化されてしまえば、ほとんど効果を発揮できない点だ。



 敵もそれを理解していたらしく、爆発が起きるより先に、すばやくルーン列を紡ぎ上げた。

 ルーヴェンスの周囲に、周囲に白いベールをまとう光球が、火花と同じ数だけ形づくられる。



 それらは、ライナルトの作り出した火花にぶつかり、これを打ち消すとともに、自らも消滅する……だろうと思われた。

 だが、ルーヴェンスの魔術は、ライナルトの魔術を相殺するだけで終わることなく、彼の描いた線をさかのぼりはじめる。



 あっという間もなく、ライナルトの足もとで白い光が弾けた。

 角の鋭利な氷のかたまりが爆風に散らされ、小さなナイフのようにライナルトを襲う。

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