10-1 隠れ家

 足を踏み入れると、一瞬、白い光に目がくらむ。



 二階建ての廃屋の一階部は仕切り壁で二分されており、そのうち『空の破片』側は、ことごとくを破壊されていた。


 日光に晒されたそちらとは対照的に、仕切り壁のこちらには、質量を感じさせる薄暗がりがひたと満ちている。

 ジェラールを照らしたのは、仕切り壁に開けられた通路から斜め差す白い光だった。



 玄関付近を照らす光の輪郭を踏み越えれば、ぬるい薄暗がりがジェラールを包みこむ。

 閉ざされた火の都フラメリア支部での暮らしに慣れたジェラールには、心地のいい明るさだ。すぐに目が慣れ、暗がりの中に、いくつかの形を見て取れるようになる。

 


 仕切り壁で破壊から守られた空間は、こぢんまりとしていた。

 その大部分は、中央に据えられたテーブルが占めている。テーブルは壁に対して斜めにかたむけられ、狭い空間を不均等に切り分けていた。


 椅子が三つ、不要だと言わんばかりにテーブルと壁の狭い隙間に追いやられ、窮屈そうにしている。



 ジェラールは、四隅に山を作る細かい瓦礫をぐるりと眺めてから、奥の壁にもたれたカキドを見やった。


 カキドは、壁沿いのソファでジェラールを待っていた。ソファとは言っても、毛布を引っかけられた様からして、寝床として使われているようだが。

 ソファにかかった毛布の上に、ジェラールと同じ、火の都フラメリア支部から配給されるマントが広げられている。カキド自身は、くつろいだような軽装だ。


「帰らなくていいんだ?」


「お前を探しに来たのに、お前を置いて帰れるかよ」


 ジェラールの返事に、カキドはくすくすと笑う。二人の間に流れる空気は、妙なほどにいつも通りのものだった。



 ジェラールは、カキドに促される前に、いすを引いてきて腰かける。


 一つの寝床に対して、三つのいすは多すぎる。

 おそらくは、彼女が持ち込んだものではなく、置き去りにされていた家具を、そのままにしているだけなのだろう。

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