7-2 空の破片
何か言いたそうにジェラールを見つめるカキドと、心配性の彼女に弱音を聞かせたくないジェラール――二人がどちらともなく黙りこんでしまうと、執務室にぬるい沈黙が舞い降りる。
紙がこすれる音がたびたび静けさを引っ掻き、部屋の隅に転がされていた魔石の一つが、今にも力尽きそうにゆっくりと明滅するばかりだ。
そんな静けさの中。ふいに、執務机に立てかけられていたジェラールの杖が、カタカタと音を立てはじめた。
杖を震わせたわずかな振動は、すぐに部屋全体を震わせる揺れへと変わる。振動に伴って部屋の外から聞こえてきた低いうなりが、二人の後頭部を鈍く叩いた。
何か、巨大なものが近づいてくる。その正体を悟ったジェラールは、すぐさま机にしがみついた。
コンマ数秒後――床が、大きく跳ねた。
そして、静寂が戻る。ジェラールは、机にしがみついた姿勢のまま、天井材のくずと埃が降り落ちてくるのを睨んだ。
「……『空の破片』だな」
「ここからは遠いみたい。市街地の方かな。最近、やけに増えたね」
カキドが、ぶつけたらしいあごをさすりながら応じる。
空を覆う天球がぼろぼろと崩れ落ち、その欠片、『空の破片』が地表に突き刺さる。そうして天球に開いた穴の向こうから灰色の靄が流れ出し、少しずつ、都世界の空気を濁していく――。
そんな現状は、ジェラールを含む多くの若者にとって、当たり前のものだった。
しかし、二十年ほど前から始まったと言われる天球の崩落は、ここ数ヶ月、急に速度を増していた。
今では、三日に一度は
「この頃は『灰の霧』もひどくなってて、外に出るのが億劫だよ」
カキドは不満げにつぶやき、ソファの上で寝返りをうった。仰向けになった彼女の表情は、ジェラールの位置からは覗えない。
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