7-1 足かせ

 ジェラールはこの一日、支部拠点のあちこちに顔を出した。


 剣術の訓練をする下位魔術師や、魔術の修練に励む上位魔術師たちを激励し、書庫で調べ物をしている者たちを恐縮させ、皆とともに食事を取り、体を洗い清め……結局、執務室に戻ったのは、夜も遅くになってからだった。



 執務室からの外出に〈一日に何度かに限り〉と条件をつけていたカキドは、「僕にも仕事があるんだけど……」とぼやきながらも、最後まで付き合ってくれた。

 やはり、ジェラールを閉じこめておくのは本意ではなかったらしい。



 数日ぶりにいつも通りの生活を取りもどしたジェラールは、パイプをくゆらせながら、カキドが持ってきた仕事を片付けにかかっていた。

 ジェラールの仕事は、前もって彼女が整理してくれているため、実際にすることと言えば、サインくらいなのだが。



 ふいに、ソファにうつ伏せに寝そべり、ひじ置きにあごを乗せて休んでいたカキドが、わざとらしくうなった。

 

「カキド、仕事はいいのか?」


「それどころじゃないよ。気疲れしちゃってさ。僕はあなたみたいな人好きじゃないんだよ」


 カキドはそう言いながら、〈誰のせいだと思ってるの?〉とでも言いたげに、ジェラールを睨む。

 だが、その顔は、すぐに心配そうなそれに変わった。


「……ねえ。やっぱり、足、痛むんでしょ。途中から辛そうにしてたよね」


 ジェラールは、肯定するかわりに、ゆっくりと煙を吐き出した。煙は、独特の甘い匂いを伴い、魔石の放つ光と混じり合いながら空に広がる。


 パイプの先で燻されているのは煙草ではなく、リャンがジェラールのために調合した、〈痛み止め〉のブレンドハーブだ。



 リャンの部屋を訪れてしばらくしてから、ここ数ヶ月ほとんど痛みを感じなかった右足が、ふたたび痛み出していた。


 あらかじめリャンの診察を受け、足に異常がないことはわかっていたため――すぐにリャンのもとに戻る気にはなれなかったこともあるが――、リャンには知らせていない。



 幸い、痛み止めの効果あって、痛みはだいぶ落ち着いている。

 とは言え、これからまた、足首を強く締めつけるようなあの痛みが続くかもしれないと思うと、気が滅入るのだった。

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