6-12 尊きもの

「タンクは樹の都アルベリアにあるらしい。本部の干渉なしに調査、修繕をするのはほとんど不可能だが、本部がタンクのことを承知しているかどうかは怪しい。……どう思う?」


「いろんな意味で面倒だね。本部に調査を委託したら、たぶん、解決まで小タンクが持たない。向こうの都合で、調査結果をごまかされるかもしれないし。かといって、こっそり調査隊を送り込んで、バレたら大目玉だ」


 タンクの件は、放置するわけにはいかない。だが、樹の都アルベリア本部と対立する危険性があるとわかった以上、簡単に片付く話でないことは明らかだ。



 立場上、とても口に出せたものではないが、リャンとのやり取りを通じて、ジェラールの中で、この件に積極的に取り組むことに躊躇が生まれつつあった。



 今の火の都フラメリア支部に、大きなタンクは必要ない――もちろん、ジェラールは支部の未来を見据えて、それを否定する。

 とは言え、本部と対立してまで、今、タンクの不調を解決する必要があるかと自らに問えば、迷いが生じるのだった。



 リャンの言うように、新たなタンクを探して間に合わせる方法もある。火の都フラメリア内であれば、調査隊を自由に動かすこともできる。


 支部の規模に見合った小さなタンクなら、もしかすれば、魔術的資源に恵まれない火の都フラメリア内でも見つけられるかもしれない。

 

「まあ、皆にタンクの件を伏せるって判断は正しいと思うよ。この段階で皆にタンクの件を伝えたところで、これからどうするかは決まってないわけだからね。不安を煽る必要もないじゃない?」


 カキドはそう言いながら、空間同士を繋ぐ扉の取っ手を引いた。扉の向こうには、それまでと同じく、廊下が先へとのびている。

 ドア枠を越えると、人が集まる場所特有の、空気がおしゃべりしているかのような高揚感がジェラールを包みこんだ。



 ふと、右手の部屋から、リャンが歌を聞かせていた子らよりも幼い子供たちが、保母である女魔術師とともに現れる。



 女魔術師は、ジェラールの姿に気がつくと、あわてて子供らを部屋に押し戻し、道を空けようとした。

 ジェラールはそれを制すると、子供嫌いを公言しているカキドを壁際で待たせ、子供たちの傍に歩み寄る。



 ジェラールは、子供たちの前で膝をつき――不自由な足のせいで、多少苦労した――、彼らの顔を見渡した。


 ジェラールのことを知っていて近づいてくる子もあれば、まだジェラールが何者であるのかわからず、じっと見つめるだけの子もある。


 彼ら一人一人に、支部員としての未来があることに思い至ったとき、ジェラールは、迷いが晴れていくのを感じた。



 火の都フラメリア支部には、やはり、大きなタンクが必要だ。ここにいる子らの未来には、樹の都アルベリア本部と対立するリスクを負うだけの価値があるのだから。

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