4-4 前触れ
「早急に対策を練る必要があるな。にしても、原因の調査にどれくらいかかるか……。それで、予兆と言ったのは?」
「ここ一週間ほど、時々パスが不安定になることがあった。だが、それだけなら時々あることだろう?」
ライナルトのこの返事に、周囲で見守っていた魔術師たちが、彼を後押しするようにそれぞれに頷いた。
ライナルトの言うように、宝玉とタンクの間のパスが不安定になることは、これまでにも何度かあったことだった。
はじめの頃は『おつとめ』も自粛させていたのだが、宝玉の状態がそれ以上悪化したことがない一方で、支部員――特に、まだ幼い見習いたち――の動揺は大きかった。
前支部長キースは、下手に皆を不安にさせるよりは、事故に備えて腕の立つ上位魔術師を配備したうえで様子を見た方がいいとして、『おつとめ』の自粛を取りやめたのだった。
「そういえば、あの人がジェロアを連れてくる前にも、宝玉の様子がおかしくなったことがあったな。確か、その時にタンクの魔力貯蓄限界量が大幅に低下して、今でもそのままだったか」
ライナルトが、懐かしげにひとりごちる。
キースが、赤ん坊だったジェラールをどこからか連れてくる数日前、過去一番に宝玉の働きが乱れた。
当時は、支部員の数もずいぶん多かった。タンクに日々注ぎ込まれる魔力も、現在の比ではなかっただろう。
それを平然と受け入れ、無限と思われてきたタンクが、ある日唐突に限界を示した――宝玉を通じて、『おつとめ』をした術者に魔力を反射するようになったのだ。
何人かの怪我人と失神者を出したこのトラブルは、その後のジェラールの訪れとともに、英雄譚のはじまりのごとく語られるようになった。
英雄ベルリオーズ・ベロワイエの末裔であり、妖精女王の祝福を受けた、特別な子が現れる前触れだったのだ、と。
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