04-穴

 雨が降っているらしかった。

 朽ちかけた棺桶の蓋を蹴破って、大量の土砂で押しつぶされた後、土の中でもがきながら数回、窒息死している。真っ暗な土の中は恐ろしく冷たく、泥は容赦なく身体中の穴という穴にもぐりこみ、生きるためのすべてを失った状態で生き返った俺は、文字通りの死にもの狂いで上に向かって土をひっ掻き回していた。

 土しかないと分かっていながら、苦しさのあまり口を開いては大量の泥を飲み下す。喉の奥でぬるりと動いたのは、ミミズか、それとも何かの幼虫か。生き返ってたった10秒ほどで思うように動かなくなった身体を、これまでか、とあきらめてあと数回、惰性で掻いた指先が不意に空を切った。

 雨で土が柔らかくなったのが幸いしたのかもしれない。判断力も、まともな精神もぶっ壊れた状態で、やっと顔を出した俺は長々と泥を吐きだし、数年ぶりの空気にありついた。雨でけぶる深夜の墓地で、墓穴から這い出した姿の不気味さなど夢にも考えずに。

 三つの松明が近づいてくるのが見えた。助けを乞おうとしたが、言葉が出ない。息を詰まらせていたせいか、それとも極度の恐慌状態に頭がやられてしまったか。とにかく何か言わなければ、と思って発した声は、およそ人間の声とは思えない、獣の鳴き声のような音。

 スコップで背骨をへし折られ、まだ生きたまま火で焼かれたのをおぼろげながら覚えている。そのときの三人の男の顔は、あらん限りの恐怖でひきつっていた。

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