第2話 着任のあいさつ

 空が青い。本当に透き通ったブルーだ。

 汐汲坂の途中、桜の花が満開で出迎えてくれる。

 余りに暖かくて緩めていたネクタイを、しっかり締め直す。念のために手鏡も出して、身嗜みの最終チェックを行う。

「よし!」

 期待と不安の両方を抱えて、僕は通用口から校内に入る。汐汲坂小学校。歴史と伝統があり、かつ異世界人児童の受け入れに積極的な学校だそうだ。

 社会人生活を4年。悪い職場ではなかったが、何かが違うと、思い切って臨時任用で教鞭をとることにした。

 就活時に教員採用試験に失敗して以来、押入の奥に放置されていた教員免許がいよいよ役立つ時が来た。

 事前に言われていた通り、職員玄関横のインターホンを押す。

「はーい。どうぞお入りください」

 僕の靴箱はもう用意してある。

 昨日見かけた個性豊かな子供達に会うのが楽しみで仕方ない。

 今日から僕は、教師なんだ。



 都会にしては広々とした体育館。

 子供達は息をのんで壇上の僕を見つめている。

「始めまして。今日から皆と一緒に勉強する、阿須開あす ひらくです。いきなりですが、バク転します!」

 僕はマイクにぶつからないよう少し位置を変えて、バク転をする。

 子供達の、おーーー、という声。

「趣味は空手です」

 強そ-、すげぇー、という声が聞こえてくる。

「多文化教室の副担任をします。多文化教室のお友達はもちろん、交流授業のときに多文化教室ではないお友達にも、色々お世話になると思います。よろしくお願いします!」

 子供達から拍手。僕は一礼して、壇上から降りる。

 入れ替わりに壇上に上がる校長から、うまくやったね、と笑顔で肩を叩かれる。

 先生方の隣に並ぶと、まずは一番近くにいるアニヌス=リザーンさんの様子を見る。交流級である6年1組で、アタマ一つ抜け出たリザード族の男の子だ。

 彼のそばには、多文化教室正担任のリリー先生が付いている。

 アニヌスさんがうっかり1年生を捕食しないよう、見守っているのだ。

 本人に悪気はないそうで、口に入った時点で違和感があり吐き出すため、それほど危険なことではないらしい。しかし、捕食されそうになった子の保護者にしてみれば、心穏やかではいられない。だから、そもそもそうならないように注意しなくてはいけない。

 しばらくして朝礼が終わり、普通級の子供達が列を成して教室に戻る中、多文化教室の子供達はここから別行動になる。僕は思いついて、低学年の子を迎えに行くことにする。

 体育館の真ん中に向かうと、1年生のフィリンさんと、2年生のサナさんが手をつないでこちらに走ってきている。

「おいおい、走ったら危ないぞ」

 たしなめても効果はなく、二人して僕にしがみついてくる。

「先生、早速モテモテですね」

 アニヌスさんの隣から離れないリリー先生が笑顔を見せる。この先輩、何の変哲も無いオフィスカジュアルなのに、とにかく可愛くてセクシーだ。サキュバス族の特性を発揮しまくっている。

 みんな揃って、教室に向かう。

 いよいよ、初めての朝の会だ!

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