No.7-17

 私がメグミ・トーゴーから知らされたのは、その敵が今どこを住処としているのか……ただそれだけだった。しかし、それだけで十分だった。

相手は私が……兵士、フラン・モンタギュー曹長がこの敵をどう追い詰めるのかを知りたいのだろう。そして……必要な情報は確実に提供をするということの保証でもあるのだろう。

そうなれば後は、相手が望む手段と方法で敵を追い詰めさえすればいい。これは作戦のようで、作戦ではない。そして復讐でありながら、その本題は復讐ですらない。

これはコミュニケーションだ。メグミ・トーゴーと私が、一つの作戦行動を題材にとって行うコミュニケーションだ。君であればこうする……というのをお互いに、電話越しにチェスを指す友人同士のようにやりあっているのだ。

私は単なる一兵士だ。最終階級は曹長で、下士官としてのある程度の教育を受けたに過ぎない、ただの兵士だ。そして、私が受けた教育とは……多国籍陸軍大将メグミ・トーゴーの考える、理想的な教育とはかけ離れた、多国籍陸軍を飛び越えた、トーゴーの忌み嫌う非効率的、事なかれ主義的なものだったのだろう。しかし、だからこそ今の私には、トーゴーの意図が、分かる。

トーゴーは私という兵士を認識したきっかけは、自身の考案したグランドホテル作戦にあるという。この作戦で私がとった、自立的な作戦行動こそが、トーゴーにとっての『私』なのである。

私は、敵の住む場所をよく観察した。私の顔は敵に既に割れているという前提で動くべきだ、よって身一つで調査を行うのは得策ではない。自身で組み立てた電子機器を使って、建物とその周辺の人の出入りを確かめる。

そのようにして分かったことが、いくつかある。

敵の住居のマンションは、昼間も夜もそれなりに出入りがある。昼間は当然として、夜間にも、少数の住民と業者の出入りがある。そうなればあまり派手に殺すわけにもいかない……ここで爆破という選択肢を選べば、トーゴーは呆れ返って私を軍に売るだろう。実際にそうすると疑っているわけでは決してないが、それぐらい馬鹿で、間抜けなことをする奴を手元に置いておこうなどと……あの小さな上級士官は考えないはずだ。

狙撃も問題だ。殺すことは出来ても、爆殺よりはマシというだけであまりに不自然過ぎる。ガラスを割ればそれだけで数え切れないほどの物証が生み出される。そう考えれば、消音器付き拳銃による銃殺でも問題がある。銃創が残れば、これも情報となり得るからだ。

ならば……死体を隠滅すればいいのか?

これも否だ。死体の隠滅とはそれが本格的であればあるほど、プロの犯行である可能性を検討させてしまう。そうならないように、何かしょうもない理由でそいつは死んだのだ、と。そう思わせるような死因でなければならない。

ここまで分かれば、あとは実行するだけでいい。

既に、絵図は脳裏のうちにある。

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