No.5-53
しかし、夜が明けると事態は変動した。
朝になると、531高地周辺を深い霧が覆ったのである。
この霧は当地特有のものであり、現地の人間であれば知っていて当然の知識であったが、多国籍陸軍は遠征軍であり、この特性を把握していなかった。
後方から連絡が来る。その語調はひどく暗い。
「……すまない。霧が晴れるまでヘリ部隊を展開させることは出来ない。天候が上向き次第、部隊を出撃させる」
軍曹の返答はひどく投げやりだった。
「諸君らは霧の晴れた後に我々の挽肉を目にすることであろう。我々が援軍を要請し、そして今も諸君らを待って戦闘を続けているという事実を、よく理解して頂きたい」
そう言って、軍曹は無線を終えた。
「……クソッ!」
誰に言うでもなく、軍曹は虚空に向かってそう叫んだ。
「せめて敵の位置さえ分かれば! それが分かるなら、火砲が使用出来るのに」
ある兵士が言った。
「敵軍の数は多い。防衛陣地を外して砲撃すれば敵軍に多少なりとも損害を与えることが出来るのではありませんか」
軍曹は答えた。
「火砲を使用すれば、砲の位置が確実にバレる。そして、現在の我々に火砲を問題なく防衛出来るだけの戦力はない」
また、別の兵士が言った。
「今すぐに撤退するべきです。防衛陣地を放棄して後方に下がりましょう」
軍曹は答えた。
「敵の侵攻速度を考えろ。我々には土地勘もなく、辺りは深い霧に覆われている。追撃の末に殲滅されるか、それに近い状態になってしまうだろう」
そうして、司令部の兵士達は皆一様に口を噤んだ。しかし彼女達は暗に、一つの結論に至っている……防衛陣地で奮戦する人々を置き去りにすれば、助かるかもしれない、と。
しかし、全く違う回天の策を考え出した人物がそこには居た。誰あろう……メグミ・トーゴーであった。
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