No.5-8

 この作戦概要を聞かされた数人の士官はひどく困惑し、また驚愕した。彼等は『今まで自分がしてきた仕事そのまま』に、この作戦の問題点を指摘した。彼女、メグミ・トーゴーの返答はこうだ。

「全ての質問事項を作戦段階毎に区切って提出し給え。矢継ぎ早に繰り返される質問にそれぞれ応答するようなソフィスト的な問答、弁証は御免被る」

 この返答を聞いて、士官たちはまた再度驚く様を見せ、トーゴーは呆れ果てた。しかし彼等の驚愕は無理もないことである。これほどまでに独善的で身勝手で慇懃無礼なこの少女が、まさか自分達の意見を全うに聞き入れようというような態度を取るとは夢にも思わなかったからだ。彼等の中で最低値近くを彷徨っていた彼女に対する信頼の度合いが一時的にではあるが、回復する兆しを見せたことは間違いない。

彼等は彼女の言った通りに、作戦段階ごとに生じる様々な問題をまとめた。それは以下の通りである。

フェイズ1における問題

今日に至るまで、多国籍軍は"クリーンな戦争"という宣伝をもって戦争を継続してきた。これが意味するのはつまり、民間人が在居する地域における戦略爆撃のような作戦手法を今まで一度もとったことがないという事実である。しかし、フェイズ1開始においては『敵軍による迎撃を前提とする』とはいえ、民間人の居住地域への攻撃を行うこととなってしまう。

フェイズ2における問題

仮にフェイズ1の作戦が完遂、成功したとしても、現在定義されている攻勢地点の距離では兵力集中は可能でも、敵防衛線の綻びは小さなものであり、敵軍の機動戦力がすぐさま攻勢地点アルファに駆けつけ、再度防衛線を構築することが可能になるのではないか?

:そうした予想から、攻勢地点アルファを再定義し、より広い範囲での攻勢を行うことをここに求める。

フェイズ3における問題

もし仮に。もし仮にフェイズ1・フェイズ2における作戦計画が完遂され、成功したとしても、海空軍を有する第二戦闘団との分離を実行した第一戦闘団では、敵後方に侵出した友軍部隊への物資補給が非常に困難になり、アルファ地点が敵機動戦力によって修繕された時、第一戦闘団の有する機動戦力が壊滅する恐れがある。そして、もし仮にアルファ地点の突破状態を維持出来たとしても、後方における敵国の重要地点の確保と維持には歩兵戦力が絶対に必要になる。

:これらの予想から、フェイズ2においてなされた提言に加えて、敵兵力の包囲にこだわらず、敵防衛線の大規模突破を優先するべきではないか、と士官総員の意志をもって宣言する。

これら全ての作戦段階における問題点の指摘を彼女は受け入れざるを得ないであろうと士官達は予測していた。何故ならばこれらの問題点は十割ではないにせよ、少なくとも七割方は事実であり、それらは覆しようがないと思われたからだ。

しかし、彼女の返答はこうであった。

「諸兄らの指摘する問題点を得た今にあって、作戦に加えられる修正はごくわずかである。つまり、フェイズ3における後方浸透戦力について、海岸を目指す形にすることで、第二戦闘団の"自主的な"補給の実行を誘引することとする」

 士官らはお互いの顔を見合った後、一人がそれに言葉を返す。

「……おっ、おっ、お言葉ですが、閣下! 第一戦闘団と第二戦闘団を切り分けられたのは、他でもない『貴方』ではありませんか!」

 少女は言った。

「そうだが?」

「そうして戦力の純粋化を実行した閣下が、どのツラを下げて彼等に補給を願うのですか」

「? 何を言っている。何故私が彼等に頭を下げなければいけないんだ……もし仮に頭を下げるとするなら、それは諸君らにお任せしようと思っている」

 士官達は彼女のその横柄極まりない応答に絶句した。しかし彼女は言葉を繋げていく。

「諸君らは頭を下げることで物事万全に上手く運ぶと思い込んでいるようだが、それは旧いやり方だ。もし我々のこの作戦が成功し、我が軍の戦力が海岸に到達し、海岸沿いからの補給を連中が実行しないのであれば、それは明確な反軍行為である。我々はそのような愚劣な行為をはかる友軍を許すわけにはいかない。無論『最悪の場合』我々は我々のみで補給を行わなければならなくなることも考慮しなければいけないし、それは大前提であるが、それと同時に、彼等がそうした反軍行為に手を染めるというような悲観主義の湖の底に沈むようなことをするべきではない。故に……」

 一拍置いて、彼女は言葉を発する。

「第一戦闘団を構成する諸君らが最善を尽くし、これら諸所に生じる義務を遂行することを、私は期待する」

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