No.3-7

 次の日の朝、基地内は騒然としていた。誰も彼もが中を忙しく走り回っている。

 その理由が私には理解できた。きっと、ここに居る大多数の兵士は、身近な人間の死を経験したことがないであろうから。

 私はサバイバルナイフでもって、銃に文字を刻み込む。

「コキュートス・アーモリー」

 そう。コキュートス・アーモリーだ。私はこの名前を忘れない。例え年月が私の記憶を消し去ろうとも、この銃がその名前を覚えている。

 この混乱に乗じて、私はこの基地から逃げ出そうと思った。幸い私はこの基地に来てからずっと地理の把握に努めてきたので、防備の薄い部分はすぐに分かった。私は三日分の食料と幾らかの銃火器を持って、基地から飛び出した。

 その途中、私は幾人かの人間を撃った。その中には、あの老兵士の姿もあった。けれど私は、少しも後悔しなかった。私はもはや彼らではなく、遠くに居る彼女と、遠くにある何かとをじっと見据え、追い掛け始めたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る